アメリカへの根回しなしに独断発言。外交の基本能力に疑問

ところが、日本の首相が勝手に「アメリカ軍は来る」と国会の場で宣言してしまった。これは、同盟国であるアメリカのフリーハンド(自由な選択権)を縛る行為でもある。

アメリカ政府からすれば、「日本が勝手に我々の軍事行動を決めるな」「戦争の引き金を勝手に引くな」という話になるわけだが、実際、この発言に対してアメリカ政府は直接的な評価を避けている。駐日大使が茶化したような反応を見せたのが全てだ。

これは「応援してるけど、この発言についてはスルーするよ」という外交的なサインである。最も重要なパートナーであるアメリカの意図を全く理解せず、事前の根回しもなしに独断で発言する。これは外交の基本能力すら欠いていると言わざるを得ない。

トランプ大統領(写真/shutterstock)
トランプ大統領(写真/shutterstock)

不可解なのは、日本の「保守」を自称する人々が、この致命的な欠陥を全員で無視していることだ。「米軍が来ないかもしれない」という、日本の安全保障にとって最もクリティカルなこの論点を直視せず、勇ましい発言だけに酔いしれている。

彼らはこのリスクに気づいていないほど愚かなのか、あるいは気づいていながら現実逃避をしているのか。どちらにせよ、同盟の現実を見誤った思考停止状態にあると言わざるを得ない。

法律の観点から見ても論理が破綻している高市

次に、日本の法律の観点から見ても、この発言は論理が破綻している。

まず「存立危機事態」とは、かなりマージナルな特殊な事態だ。集団的自衛権の行使の可能性をなんとかこじ開けようと、相当無理して創った概念であり、以下の厳格な定義が与えられている。

(1)我が国と密接な関係にある「他国」に対する武力攻撃が発生

(2)これにより我が国の存立が脅かされ

(3)国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。

集団的自衛権の行使は、これらの条件を満たした場合のみ国内法的に整合的となる。特に重要なのは(1)だ。

高市首相は、この伝家の宝刀をあまりに軽々しく抜いてしまった。ここで論理的な詰み(デッドロック)が発生する。

もし首相の言う通り「米軍が来ない」状況で台湾有事が起きたらどうするのか。トランプ政権が介入を拒否した場合だ。それでも日本が「存立危機事態だ」と言って自衛隊を出すなら、日本は「台湾という『国』」を守るために戦うことになる。