サスケはなぜ逃げるのか?
ではなぜサスケは脱走を繰り返すのか。犬が脱走する理由は複合的であり、「飼い主の愛情が深すぎると脱走する」という因果関係を直接示すエビデンスは現状存在しない。
ただし、飼い主の接し方が犬のストレスを引き起こし、その結果として問題行動(逃避行動を含む)が生じる可能性は専門研究で指摘されている。
代表的な論文として、獣医学領域では以下の知見が広く引用されている。例えば、米国獣医行動学会では、過度な愛着や飼い主からの過剰な接触は犬のストレスレベルを上昇させ、回避行動を引き起こす可能性があるとしている。
また、英国動物福祉科学研究では、飼い主が頻繁に抱き続けたり、犬の意思と無関係に身体接触を行う行動が犬のストレス指標を上昇させることが示されている(University of Bristol, Animal Welfare and Behaviour Group)。
立花氏の帰りを待ち続けるサスケ
これらの研究は、飼い主の「深すぎる愛情」が、そのまま犬の幸福につながらない場合があることを示唆している。愛情そのものは問題ではないが、それが過剰な場合、飼い犬の逃避行動が“脱走”という形で表出することも考えられる。
現在は、立花氏に代わって知人宅がサスケのお世話を行っている。犬には「帰巣本能」や「分離不安」に関連する行動特性があり、飼い主が長期間不在になると不安や落ち着きのなさが表れることが研究でも示されている。
ひょっとしたらサスケもまた、環境の変化を受け入れきれず、どこか落ち着かない様子を見せているかもしれない。
犬は飼い主の帰還を長期間待つことができる動物であるとの事例も数多く報告されている。サスケは今も、玄関の向こうから聞こえる立花氏の足音を待ち続けている。
文/村上ゆかり 写真/NHK党職員提供













