上流をおさえて差別化する

体験化以外での勝ち筋は、「上流をおさえる」ということです。

いいコーヒーを優先的に手に入れられるよう、生産者とのネットワークを築くのです。そして、「ここでしか手に入らない高品質なコーヒー」を取り扱えるなら、それは強いブランドになります。美味しいコーヒーの価値は高くありませんが、「ここでしか手に入らない」は大きな価値になるのです。

ただし、簡単なことではありません。生産国に足しげく通い、何十種類もカッピングして光るコーヒーを見つけることが必要です。輸出業者と信頼関係を築かなければ難しいでしょう。そして輸出業者と信頼関係を築くには、ある程度の量を継続的に買い続けることも必要になります。

この「上流をおさえる」に成功した日本での例としては、丸山珈琲が真っ先に挙げられるでしょう。

彼らは生産国へ通い、どんどん買い付けて関係を築いていきました。そのうちに世界中の良質なコーヒーを買い付けることができるネットワークを持ち、強くなっていったのです。

コーヒー農家のイメージ
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これができれば今後もやはり強いでしょう。カッパーとしての能力を磨き、現地でコミュニケーションしながらいい豆を買い付けることで差別化するわけです。

あるいは、現在はオークションによっても、生産者と直接つながることができます。ちょこちょこ買っているだけではブランド化できませんが、生産者とつながり、信頼関係を築くことができれば、太いつながりになる可能性はあります。

まとめると、コーヒーに限らず、さまざまな業界で「上流(生産現場)で供給を独占する」「下流(提供現場)で体験の価値を創出する」ことが差別化に必須な考え方になっていると思います。

生産者に近いところか、消費者に近いところで差別化・ブランド化を考えるのです。

#4に続く

文/井崎英典 写真/Shutterstock

教養としてのコーヒー
井崎英典
教養としてのコーヒー
2025/9/7
1,045円(税込)
288ページ
ISBN: 978-4815636043

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