無痛分娩後に新生児が生後1ヶ月で死亡する事案も

前出の富永弁護士によれば今回の助成金について「公的な補助を出す方針は良いですが『無痛分娩』そのものを安全に行なう機関は都内でも全国的にも少ない。そこが今後の『無痛分娩』を取り巻く課題です」と言う。

そして「『無痛分娩』に反対なわけでは決してない」としながら、こう述べた。

「まず日本の出産現場は、身を挺して懸命に働く産婦人科医達がいる一方で、後進国かというようなあり得ない事故がまだ起きています。『無痛分娩』によるものも増えています。無痛分娩はここ数年で急激に全国的に広がり、他機関との競争に負けじと『JALA』の研修も受けずに『うちでも無痛分娩できます』と始める医療機関が急増しているのも危険だと思っています。欧米からは、産婦人科一人で出産を受け入れる日本のクリニックの現状は『クレイジーだ』といわれています。そんな状況で、さらに無痛分娩を行ったらどうなるか。実際に私は現在進行形で30〜40件ほど出産トラブルのご相談を受けています」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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そのトラブルの中には無痛分娩により、子どもが死亡したケースや子どもが脳性麻痺などになり寝たきりとなったケースなどを含め様々なようだ。中には事故後に突然閉院し、カルテを紛失した等といって責任逃れをしようとするクリニックや、事故を繰り返している医師も実際にいるのだという。昨年8月には、国内の某クリニックで、無痛分娩後に新生児が生後1ヶ月後に死亡する事案もあった。

「私はこのご相談を受け、無痛分娩中の管理が不十分だったとしてクリニックと交渉を開始しましたが『過失はない』との回答があり、今は訴訟も検討しています。『無痛分娩』は安心安全な体制で行われ、無事に出産を迎えられれば妊婦さんにとってこれ以上ない選択のひとつです。東京都が始めた公的助成で多くの医療機関さんにも無痛分娩への研鑽と体制整備を整えてほしいです」

東京都が今年3月下旬に設置した無痛分娩に関する問い合わせ窓口では「どうすれば申請できるのか」「自分は対象か」といった相談が急増し10月1日から27日まで307件の問い合わせがきているという。子育て支援部調整担当課長によれば「東京都として無痛分娩を推奨しているわけではありません。あくまで出産の選択肢を広げる意味での取り組みです」とのことだ。

出産に携わる医師や助産師の無痛分娩の知識や技術を底上げさせる取り組みも急務である。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班