映画を「見ていない人が読んでください」

──『うわべの名画座』には170以上の映画が登場します。戦前の映画から、令和公開の映画まで、どのように選ばれましたか?

まず、お伝えしたい。あなたが見たことがある映画は、たぶん、一作も出てきません。出てきたとしても一作か二作。

次に、「映画について語り合いましょう」という本ではありません。映画や映画に登場する人物を「とっかかり」にして、時代の価値観の変化、いろいろな思いや考えを綴った随筆集です。

みなさんが知っている映画は出てこないけれども、「とっかかり」から綴った思いや考え、出来事は、きっとみなさんにとっても身に覚えのあることではないだろうか、という本だということをお伝えしたいです。そして「とっかかり」は映画だけではなく、漫画、アイボ、近年炎上したポスターなどが出てきます。

姫野カオルコ(ひめの・かおるこ)作家。1958年滋賀県甲賀市生まれ。『昭和の犬』で第150回直木賞を受賞。『彼女は頭が悪いから』で第32回柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に『蕎麦屋の恋』『よるねこ』『謎の毒親』『青春とは、』『悪口と幸せ』などがある。写真は映画『大人は判ってくれない』を彷彿させるポーズで
姫野カオルコ(ひめの・かおるこ)作家。1958年滋賀県甲賀市生まれ。『昭和の犬』で第150回直木賞を受賞。『彼女は頭が悪いから』で第32回柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に『蕎麦屋の恋』『よるねこ』『謎の毒親』『青春とは、』『悪口と幸せ』などがある。写真は映画『大人は判ってくれない』を彷彿させるポーズで
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──映画好きの姫野さんは、この本に挙げられている以外にも、たくさんの映画を見てこられたと思います。その中から、あえて、古い映画や、あまり知られていない映画を「とっかかり」にしたわけでしょうか?

はい、あえて古い映画を中心に選んでいます。

たとえば、好きな異性をデートに誘ったとき、「会社の○○部長がね」とか、「学校の○○先生がね」といった、身の回りの人の話は避けたほうがいい、とモノの本に書いてありまして……。近くの人や事物ではなく、「今日は三日月だね」とか、「あっちに見えるのは○○山脈かな」とか、遠くの事物を話題にしたほうが、自分たちが近くにいることを感じやすい心理が働くのだと。

こうした心理に似ていて、もし、今話題になっている映画や、ここ数年の大ヒット映画を本に出すと、読者は「見た」「見てない」が気になってしまって、見ていない人は置いてきぼりになってしまいます。

反対に、昔の映画や遠くにある映画、あるいは、皆が忘れたモノなどを「とっかかり」にすると、「見た」「見ていない」から意識が離れて、読み手の側の体験や思いが呼び起されるだろうと。

ですから、この本に出てくる映画を「見ていない人が読んでください」と言いたいくらいです。見ている必要は全くないのです。いくつかの映像化作品の中から一位を決める「ひとり映画祭」の章も、これから見るガイドにしてもらえれば、と。