なぜ人は顔ではなく、雰囲気を見るのか

──「とっかかり」になっているのは、具体的には、映画などに出てくる<うわべ=顔>です。雰囲気ではなく「顔を見る」とはどういうことかが、この本の読みどころの一つです。

私に限らず、顔にはみなさん、興味があると思うんです。ただ、前作『顔面放談』に、誰と誰が似ている、という<発見>を書いたら、「えー、そうかなあ?」という否定的な意見ばかりでした。なぜそういう意見になるかというと、目の形、皮膚の質感、毛髪の固さといったパーツを、多くの人は見ていないからです。

髪型がロングかショートか、眼鏡をかけているか、スカートかパンツか……そんなことくらいしか見ていない。雰囲気すら見ていなくて、早い話、「髪型」と「眼鏡」しか見ていないことがよくわかりました。

腹立たしさはありますけど、そのことを何度もくどくど言っても仕方ないので、今回の本では「似ているかどうか」から離れて、映画や日常生活で目についた顔のフォルムから思い出したこと、考えたことを書いたほうが、読んでもらえると思ったのです。

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──多くの人は「顔」を見ていないと、これまでも姫野さんはおっしゃっています。では、なぜ姫野さんは、顔を見ることができるのでしょうか?

絵を描いていたからでは? 顔の「かたち」を見る癖がついています。美大志望でしたが、下手だったので挫折しました。世の中の人全員が、デッサンから絵の勉強をするわけではないので、髪形や眼鏡や口紅の色が与えてくる雰囲気だけを見てしまうのだと思います。