「大谷翔平崇拝」を分析する

近年、卓越した能力を持ち注目を集める男性として、アメリカでメジャーリーガーとして活躍する大谷翔平選手に並ぶ人はいないでしょう。メディアで大谷の名前を目にしない日はないほどで、試合での輝かしい功績のみならず私生活も含めて注目されています。

多種多様な企業の広告にイメージキャラクターとして起用され、それによって生み出される経済効果や消費者からの反響がマーケティング分析の対象になり、ビジネスパーソン向けの雑誌『DIME』では「伝説の1年をデータで振り返る! 大谷SHO費〈超〉研究」と題した特集が組まれ、大谷を広告に起用したことでどれだけの宣伝効果があったのかが分析されています(*1)。

数多ある広告の中でも、美容広告の文脈で筆者が非常に強いインパクトを受けたのが化粧品メーカー、コーセーのプレステージ(高価格帯)ブランド、コスメデコルテのキャンペーンです(*2)

このキャンペーンは動画広告をはじめさまざまな媒体で大々的に展開され、都市部の主要駅近辺やデパートで大がかりな特設ディスプレイを設置した販促活動も行われて、話題を呼びました(*3)

クリスマス商戦展開中の2023年の年末、JR池袋駅構内の地下通路を歩いていた筆者の視界に入ってきたのは、柱に設置された複数のデジタルサイネージの画面いっぱいに繰り返し映し出された大谷の顔でした。黒いタートルネックを着用して顔だけがくっきりと浮かび上がり、毛穴がすべて消失したかのような滑らかな肌は光り輝き、顔はほぼ正面の角度で真っ直ぐ前を見つめています。

JR池袋駅構内のデジタルサイネージに映し出されたコスメデコルテの広告(2023年撮影)
JR池袋駅構内のデジタルサイネージに映し出されたコスメデコルテの広告(2023年撮影)
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「肌を整える。それは自分と向き合うこと。」というキャッチコピーとロゴ、画面の右下には美容液のボトルが内側から光り輝いて濃紺の背景に浮かび上がり、神託のようなキャッチコピーも相まって、聖像(イコン)のような荘厳ささえ感じられました。

さらに続く2024年には「超えたい自分がいる限り。」というキャッチコピーが添えられ、さらなる高みを目指して挑戦を続ける大谷に重ねあわせたブランドメッセージが打ち出されました。

2010年代末以降、化粧品メーカーが次々にアイドルや俳優など男性著名人を起用したキャンペーンを展開し、デパートやドラッグストアのコスメ売り場で男性の写真を目にすることは珍しくなくなりました。

しかし、コスメデコルテの広告が頭抜けて強い訴求力を発揮したのは、大谷の正面像に憧れを超えた「大谷翔平崇拝」ともいうべき、崇拝・信仰の念を込めた眼差しが具現化されていたからです。大谷のコスメデコルテの広告表現を分析することで、男性向けの美容広告における「男らしさ」描写とその目指すものを理解できるはずです。