50代が陥る中年クライシス

『ミッドライフクライシス』とは、「中年の危機」とも呼ばれ、人生の折り返し地点を迎えた40~50代が、自身のキャリアやアイデンティティについての不安や葛藤を覚える心理状態のことを指す。

「とげとげ。」さんは作品を手掛けるにあたり、友人や知人など同世代の女性に取材を実施。その中で聞いた話が“空の巣症候群”を取り扱うきっかけとなった。

「ある友人から、『子育てを終えて、気が付いたらドラッグストアとスーパーしか行ってない』という話を聞いたんです。私自身も中学生の娘と息子がいますが、子どもが小学生までは地域のクラブチームに所属してたのもあり、親同士の繋がりが強かったんです。でも小学校を卒業すると同時に、当時のママ友とも自然と連絡を取らなくなるし、子ども関連の行事に出かけることも徐々に少なくなってきたなと実感したんです」

『ミッドライフクライシス』の中でも“空の巣症候群”に陥った専業主婦のひまりを主人公の一人に据えたのにはある理由があった。

「キャリア、家庭、老後と、多くの人が抱えている問題を一番表現しやすいキャラクターだと思ったからです。専業主婦の方はブランクが長いほど、アルバイトやパートでも仕事復帰した際、仕事の空気や時間の流れに慣れるのに時間がかかったり、できない自分に嫌気が差したり、それぞれの部分で苦しみがあると感じます」

さらに今作ではもう一人の主人公として、ひまりと全く違う生き方をしてきた独身の看護師、しのも登場する。

「『誰かのために生きる日々を送ってきた』専業主婦のひまりと、『自分のために生きる日々を送ってきた』独身で看護師のしのという、正反対の2人が交流することで、お互いの視野や価値観が広がり、補い合っていけるような関係を描ければと思っています」

子どもが巣立ったことで空の巣症候群に陥った主人公の専業主婦・ひまり
子どもが巣立ったことで空の巣症候群に陥った主人公の専業主婦・ひまり