本気で政治家になりたい

もっとも、フランス政治を専門とする同志社大学政策学部の吉田徹教授は22年、朝日新聞の取材に対し、「投票率が低いことと政治無関心は、同義ではない」「フランスの若者は、(投票率が低くても)政治参加には積極的」だと答えています(同6月24日掲載)。

確かに、政治関連のデモに大挙して参加する仏の若者たちは、政治に無関心とは思えません。日本のZ世代も、SNS限定とはいえ、バーチャル空間では「こたつ記事」ならぬ「こたつ民主主義」とも言うべき盛り上がりを見せており、必ずしも政治に関心がないわけではないでしょう。

また、「この国を変えたい」と思いつつも、「誰に投票すればいいか分からない」「だから投票に行かない」との声は、今回のインタビュー調査でも多く聞こえてきました。もちろん、20代の6割以上が投票に行かない日本の現状は、決して褒められたことではありません。

ただ、これほどデジタルが身近になり、ショッピングも仕事も学びも、様々なことが自宅からネット経由で、こたつに入りながら可能になった現代において、限られた期間に「わざわざ」リアルの場に投票に出向くのは、明らかに以前より「面倒」だと感じやすいはず。その傾向は、なにも若者や日本に限ったことではないのです。

「衆院選(24年)のときは海外にいて、投票に行けなかった。でも僕、本気で政治家になりたいんです」と話すのは、グローバルメーカーに勤務する阪本弘輝さん(実名・以下ヒロキさん)。慶應義塾大学在学中に、「議員インターンシップ」に参加、国会議員の事務所で選挙活動の手伝いをした経験があります。

国会議事堂(PhotoAC)
国会議事堂(PhotoAC)
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10歳のとき、父親が「ナゾの借金」を作って離婚、母と祖父母の家で育ちました。

また中学校では、同級生によって、椅子から床に引きずり降ろされるなど暴力的ないじめに遭った、とのこと。さっそく、いじめのリーダー格(A男)を突き止めると、いじめを黙認する担任の先生と交渉し、「先生も(いじめを)大ごとにしたくないでしょう?」「それなら次のクラス分けで、僕とA男を必ず別のクラスにしてください」と迫ったといいます。

同時に、不当ないじめに遭わないためにも、一心不乱で勉強し知識を身につけ、「別の(高レベルな)ステージ」に行こうと決意。受験勉強と並行して、むさぼるように古典(文学・哲学)や偉人伝を読みあさりました。「ケネディみたいに、言葉で世界の人々に影響を与えられるって、超カッケー(カッコいい)じゃないスか」。

高校以降、真剣に政治家の道を模索し始め、大学では複数の分野にまたがる「総合政策学」を専攻。また授業で出会ったゲストスピーカーに頼み込み、「将来、政策を練るときのために」と、介護施設で1年間ボランティア活動に勤しみました。身近な祖父母の悩みや日本の少子高齢化を鑑み、未来の課題解決へのヒントを「現場で知ろう」と考えたそうです。

就活では、最終段階まで進んだグローバルメーカーの面接で、新卒採用の責任者に対し、「いつか政治家になりたい!」「そのために、世界(海外)の中の日本を見たい!」と宣言。その甲斐あって、採用後は海外支局(タイ)に配属され、いまに至ります。

本来は卒業直後、議員秘書になろうとも考えたそうですが、議員インターンシップの経験から、「政策云々以前に、議員になるまでの資金集めや、人間関係の構築がめっちゃ大変」だと気づいたとのこと。

ゆえに、しばらくは様子見だと、ヒロキさん。タイでアジア方面との取引に関わりながら、「古典エヴァンジェリスト」の名で始めた、YouTubeチャンネル(「阪本弘輝のロード・トゥ・カエサル」)を運営。「立候補の際に必要な資金を稼げるかもしれないから」と、コツコツと地道に配信を続けています。

文/牛窪恵

『Z世代の頭の中』(日経BP)
牛窪恵
『Z世代の頭の中』(日経BP)
2025年7月10日
1,210円(税込)
296ページ
ISBN: 978-4296120758

早期離職、タイパ重視、恋愛しない、飲み会嫌い、スマホ中毒……若者の「それ」本当ですか?

近年、日本の職場や消費の現場で、あるいは少子化のキーパーソンとして、広く注目される「Z世代」。実は、メディア発信による既存イメージの多くが、彼らの実像を見えにくくし、「昭和・令和世代」との大きなギャップを生んでいる可能性が、指摘され始めています。

たとえば、「会社をすぐ辞める」「恋愛・結婚は面倒」「お金を使わない」「打たれ弱い」「親とベッタリ」「政治に無関心」……など。こうした世間でのイメージの背後で、実際の令和の若者・Z世代の多くは何をどう考え、なぜそのように振舞っているのでしょうか?

本書では、消費者研究で定評のある世代/トレンド評論家・牛窪恵が、令和の若者1600人以上への大規模調査(※)と55人へのデプス(1対1)インタビューを基に、彼らのナゾにとことん迫ります!

(※大規模調査=協力:CCCマーケティング総合研究所)

●本書に登場するZ世代のナゾ●
○なぜ第一志望に決まった直後に「転職サイト」?
○なぜ「いいね」の数より「界隈」を好む?
○なぜ仕事と恋愛は「トレードオフ(両立できない)」?
○なぜ健康志向なのに体に悪そうなモノを買う?
○なぜ「地元好き」なのに都会や海外に出ていく?


【目次】

第1章 若者は「すぐ辞める」のか――仕事と働き方のナゾ

第2章 若者は「ニッポン」に興味がないのか――政治と起業、地元志向のナゾ

第3章 若者は「結婚が面倒」なのか――恋愛と結婚のナゾ 

第4章 若者は「親に甘えすぎ」なのか――家族と出産のナゾ

第5章 若者は「お金を使わない」のか――消費とSNS、友人関係のナゾ 

第6章 若者と、どう歩んでいくべきか――Z世代と創るニッポンの未来


Z世代の皆さんへ 行動経済学に基づく「3つの知恵」

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