「プロレスは闘いである」Sareeeが信奉するアントニオ猪木イズム
刺激的な言葉で「スターダム」の選手を挑発する上から目線の言動、しかもリングでは、群を抜く強さを見せつけるスタイルに「スターダム」を愛するファンは、岩谷をはじめとする選手が体を張って培ってきた至福のリングを破壊される恐れを抱いている。
その拒否反応が高まり「ブーイング」という実力行使に出たのではないか。しかも「IWGP女子王座」は岩谷が2023年4月から2年間、連続9度の防衛を重ねた至宝。しかもSareeeは、昨年4月27日の横浜BUNTAIで岩谷に挑戦し敗れている。そんなSareeeが岩谷の退団直後に王座を奪取し上から目線で過激に発していることにファンは我慢の沸点を超えたのだろう。ブーイングにはそんな「IWGP女子王座」への思いも潜んでいると考えらる。
プロレスは、ファンが幻想をふくらませリングを想像する比類なきジャンルである。ゆえに自らが大切に育んだ幻想をぶち壊す存在には明確な拒否反応を示す。
その存在が鮮烈で強大であればあるほど、反応は大きくなる。まさに今のSareeeは、「スターダム」ファンを刺激する巨人なのだ。
思えばプロレス界は、ジャイアント馬場、アントニオ猪木が対立した昭和50年代は、馬場派と猪木派でファンは論争しぶつかり合っていた。その熱が両団体を隆盛に導いた。その中で猪木は、異種格闘技戦を筆頭に独自路線を切り拓いた結果、絶大な支持を自力で獲得し、カリスマになった。
物議を醸し会場を沸騰させているSareeeは、今、昭和時代に荒野を走った猪木と同じ道を歩み始めている。
「プロレスは闘いである」
猪木が掲げた理想を信奉するSareeeに迷いはないし、ここからリングはさらに沸騰するはずだ。そして、Sareeeへのブーイング、賛否が沸騰すればするほど、極悪軍団「H.A.T.E.」を率いるワールド王者・上谷沙弥との初の一騎打ちが巨大化していく。
「Sareee VS 上谷沙弥」。誰もが予期しなかった大ブーイングの向こう側に、近年にない空前のビッグマッチが醸成されていく。
取材・文/中井浩一