「ヤザワ? フー? 東洋から来た誰?」 

セットリストが進むに従い、だんだんと年代を遡っていくという構成でコンサートは進み、終盤はエルヴィス・プレスリーのメドレーとなった。

トニ・ブラクストンが『ラヴ・ミー・テンダー』を歌うと、スティーヴ・ウィンウッドは『ハウンド・ドッグ』でそれに続き、ジョン・ボン・ジョヴィは『ザッツ・オール・ライト』を披露した。

そしてプログラムも残り3曲というところで、ようやく矢沢永吉の出番が回ってきた。

「日本のロックンローラーを紹介しよう。スペシャル・ゲスト、ヤザワ!」

意外なゲストの登場に会場がざわめく中、演奏が始まると矢沢はステージ中央に颯爽と登場した。それが自分の名前すら知らないであろう、7万人の観衆と対峙した瞬間だった。

矢沢永吉、初となるセルフカバーアルバム『サブウェイ特急』(1998年9月9日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット
矢沢永吉、初となるセルフカバーアルバム『サブウェイ特急』(1998年9月9日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット

矢沢が一歩も怯むことなく、渾身の気持ちを込めて歌い始めると、あっという間に会場の空気は変わっていった。ステージ全体を使った持ち前のパフォーマンスも披露し、矢沢がアクションをする度に会場から歓声も上がった。

次の出番は、男性シンガーたちによる『ハートブレイク・ホテル』のリレーだった。ロッド・スチュワート、ロバート・パーマー、ジョン・ボン・ジョヴィ、スティーヴ・ウィンウッドと順番に歌いながら登場し、最後に矢沢がシャウトを響かせながら登場すると、他のアーティストに負けず劣らず盛大な歓声が湧いた。

写真はイメージで(写真/SHutterstock)
写真はイメージで(写真/SHutterstock)

自分のパートを歌い終わった矢沢はすっと後ろに下がったのだが、それに気づいたロッドがステージ中央に来るよう合図を出した。

それまで延々、ロッドはオレをシカトしてた。「ヤザワ? フー? 東洋から来た誰?」みたいな感じだった。それがオレの『ドント・ビー・クルーエル』を聴いて、ロッドは素直に思ったんじゃないのかな。かっこいいって。

矢沢永吉が歌った『ドント・ビー・クルーエル(邦題:『冷たくしないで)』も収録されているアルバム『ベスト・オブ・ザ・'68 カムバック・スペシャル』(2019年2月27日発売、Sony Music)のジャケット
矢沢永吉が歌った『ドント・ビー・クルーエル(邦題:『冷たくしないで)』も収録されているアルバム『ベスト・オブ・ザ・'68 カムバック・スペシャル』(2019年2月27日発売、Sony Music)のジャケット
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左にロッド・スチュワート、右にジョン・ボン・ジョヴィ、そして中央に矢沢永吉という組み合わせに、会場のボルテージは最高潮に達した。

常に勝つことを考えて行動してきた矢沢は、ここでも圧倒的に不利な状況をはねのけて、勝ちを掴み取ってみせた。

文/TAP the POP

参考文献:『アー・ユー・ハッピー?』矢沢永吉著(角川文庫)