矢沢を待っていた、明らかな待遇差 

“キング・オブ・ロックンロール”のエルヴィス・プレスリーが亡くなってから、ちょうど20年の節目となった1997年8月16日。

ロンドンのウェンブリー・スタジアムでは、「Songs & Visions(ソングス・アンド・ヴィジョンズ)」というコンサートが催された。

ウェンブリー・スタジアム(写真/Shutterstock)
ウェンブリー・スタジアム(写真/Shutterstock)
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世界を代表するスターが集まり、エルヴィスがデビューした1956年から40年間のヒット曲を振り返りながら、次々と豪華共演を果たすという内容で、その模様は世界20カ国のテレビで放送される運びとなっていた。

イギリスからはロッド・スチュワートやスティーヴ・ウィンウッド、ロバート・パーマー、アメリカからはジョン・ボン・ジョヴィやチャカ・カーン、メアリー・J・ブライジらが参加する中、日本からはアジア代表として矢沢永吉が出演することとなった。

世界という大舞台に心を躍らせた矢沢だったが、現地で待っていたのは、他のアーティストとの明らかな待遇差だった。

リハーサルの時間は他の出演者よりも圧倒的に少なく、音も悪くてトラブル続きだったという。

「それが現実なんだ。世界の壁はまだまだ厚いんだ。オレは悔しかった」

妻に電話すると、「こういうインターナショナルな催しは、もう二度とやらない」と珍しく不満を露わにした。

『E.Y 70'S』(1997年10月1日発売、Sony Music)のジャケット。「キャロル」以来、音楽活動 25 年を記念するベスト盤、初CD化曲『せめて今夜は』が収録されている
『E.Y 70'S』(1997年10月1日発売、Sony Music)のジャケット。「キャロル」以来、音楽活動 25 年を記念するベスト盤、初CD化曲『せめて今夜は』が収録されている

しかし、だからといって引き下がるわけにはいかなかった。どんな時でも勝つためにはどうすればいいのかを考え、常に最善を尽くすというのが、矢沢の信条だったからだ。

コンサート当日、会場は7万人以上もの大観衆で埋め尽くされた。テンプテーションズの『パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン』のイントロが流れると、ロッド・スチュワートが登場して先陣を切り、続いてチャカ・カーンも登場。そこにスティーヴ・ウィンウッドとメアリー・J・ブライジも加わった。

豪華アーティストたちの共演に、会場は出だしから熱狂に包まれた。