流れを変えた「たかが選手が」発言
7月7日のオーナー会議後の記者会見では渡邉オーナーが「オリックス・近鉄の合併の承認」、そして堤義明西武オーナーが「パ・リーグが合併で4チームとなってセントラルと1リーグの中で試合をするようお願いした」とそれぞれに発表。もはやこの流れは止められないのではないかと思われた。
古田は囲み取材で「オーナー側と会いたい」と素直に漏らした。プロ野球の最高決定機関がオーナー会議である以上、親会社からの出向で来ている決定権のない球団代表クラスとの対話では埒が明かない。
しかし、この言葉を記者から伝え聞いた渡邉オーナーは「無礼なことを言うな。たかが選手が」と吠えた。
この発言は一斉に報じられて、世論の猛反発を受けた。最初は対岸の火事とばかりに無関心だったオリックスと近鉄以外のファンも、この球界再編問題をめぐって、愛する選手が経営者たちに手駒のように粗末に扱われていることにようやく気がついた。「古田頑張れ!」という機運が一気に醸成されていったのだ。
「たかが選手」発言があった2日後の7月10日、選手会は臨時総会を招集し、「近鉄とオリックスの合併の凍結」の要求とストライキを行う可能性について決議した。古田はこう考えていた。
「1リーグ制になることのメリットが見えない。セ・パ交えての新しい対戦カードが新鮮に思われるのは最初だけで、あとは結局、消化試合が増える。球界発展のためと言いながら、自助努力をせずにただ巨人の放映権にぶら下がるだけの球団経営では先細りは見えている」
実はこの頃、巨人戦の視聴率はすでに9%を切ることも度々あった。それにもかかわらず、特にパ・リーグの経営者たちはあいかわらずその神通力に頼ろうとしていた。
7月31日、古田は「朝まで生テレビ!激論!日本のプロ野球が滅亡する!?」(テレビ朝日)にパネラーとして出演する。同じステージには渡邉オーナーの盟友である政治評論家の三宅久之が睨みを利かせ、「ナベちゃんから手紙を預かってきた」と、1リーグ制推進派の強力な代弁者としての役割を果たしていた。
下手をすればただのポジショントークに消費されてしまう可能性もあったが、古田は選手会長として意見発信できる媒体にはどこへでも出ようと決意していた。
司会の田原総一朗から、「これ、選手はどこまで抵抗できますか。ストライキは?」と問われると「やる可能性あります」と答え、寺崎貴司アナウンサーから「実際にはいまの勢いは止められないですよね?」と詰められれば、「いや、そんなことない。止めるつもりです」と毅然と返した。
古田は最悪の事態に備えて、スト権の確立に向けて動き出していた。
「もちろん、ストライキなんて最初は一切考えていなかったんですが、僕らがシミュレーションしたらこれは3カ月くらいの戦いになることがわかった。現実的なことを言いますと、交渉が全然進まないんですよ。
オーナー側からしたら交渉のアリバイ作りをやっているだけなんです。要は3カ月という時間さえ過ぎればデッドラインがある。10月、11月になれば、もう新しい球団の参入なんか絶対無理ですからね。
早い段階で止めるためにはどうすべきか。ストは労働組合に認められた権利。ならばそれを最後の切り札として交渉に臨むという考えに達しました」