「まいったな。これまでの優作のイメージを全部ひっくり返すわけだ」

打ち上げの席での、優作の決意表明(ビジョン)から十日ほど経った。

順序としては、優作があの決意表明をまずプロデューサー、黒澤満に打ち明け、黒澤から製作総指揮の角川春樹に上申してもらい、監督、村川透にも打診して、原作をまるごとひっくり返す大改変を許容するかどうか検討する段取りがごく当たり前じゃないのか。

そこで初期の構想としては許容する、ついては脚本家を選定し直して、原作とは大幅に異なる登場人物、特に主役像を新たに立ち上げ、新たな物語、構成、テーマを具体的に創作させる、という流れじゃないのか。

それが途中を全部すっとばして、なんでいきなり私に。
だが優作が言っているのだ。優作に見こまれたのだから、やるしかない。約十日間で調査取材、想像力、空想力を総動員して得た構想をメモして、黒澤と会った。

「待ってたよ」
「どう変えるかは優作さんから聞いてませんよね」
「うん。だいぶ変えるのか」

緩く、緩く、振り返り、背後を見る。
死んだ目。
痩せぎす。
女性を抱けない。酒も煙草もやらない。
銃を撃てない。

「そういう伊達邦彦だそうです」
「まいったな。これまでの優作のイメージを全部ひっくり返すわけだ」
「そのパーティの席で私が、都会のなかにひっそりと生息している野獣ですかと言ったら、ひっそり、という表現が気に入ったみたいで、ふだんは猫背気味に本を小脇に抱えて靴音も立てずに歩く奴、と」
「角川さんは『金狼』以上のバイオレンスアクションで売ると決めてるし、大藪さんにとって『野獣死すべし』は自分の代名詞、野望を銃とタフな肉体と精神で制覇する大藪ワールドの代表作だからなあ。ふたりを説得するのはむつかしいかな」
「黒澤さんは?」
「いや、俺もふつうにアクションやってほしいさ。うん。だけどもう——」
「これからは同じようなことは二度としない、と言ってます」
「『探偵物語』のPARTⅡの打診もきてるんだがね」
「やらないでしょう」