「父に全部、おんぶに抱っこで甘えてた」

その後、母はデイサービスなどを利用し始め、症状が進行すると施設に入所した。母の代わりに家事を担ったのは父親だ。総菜を買ってきて食卓に並べてくれ、西沢さんが「欲しい」と言って飼い始めた犬の散歩も父がしてくれた。

「お母さんがいなくなって、父に全部、おんぶに抱っこだったんです。甘えていたんですよね。うん。甘えてた」

西沢敦司さん(62=仮名)
西沢敦司さん(62=仮名)

ひきこもり状態の人は全国で146万人(2023年度内閣府調査、15歳~64歳)と推計されているが、西沢さんのように、高齢の親(80代~90代)が中高年の子ども(50代~60代)の面倒を見ている家庭は多い。

親が老いるにつれて支えきれなくなり共倒れするケースが相次いでおり、「8050問題」と呼ばれている。親の死後、ひきこもる子どもが餓死したという痛ましい事件も起きた。

西沢さん親子をギリギリのところで救ってくれたのは、西沢さんのもとを訪れていた訪問看護師だ。西沢さんが社会とつながりを持てるよう、「リカバリーカレッジ・ポリフォニー」(東京都東久留米市)への通所を勧めてくれたのだ。ポリフォニーが行なっているのは障害者サービスの一つである生活訓練事業で、3年間利用できる。

だが、当初、西沢さんは頑として拒否していた。

「最初は『嫌だ、嫌だ』と言ってました。あんなところに行っても仕方ない。なんで人に指図されなきゃいけないんだ。家にいれば誰にも何も命令されないのにって」

西沢さんは訪問看護ステーションやポリフォニーに電話をかけ、留守番電話に暴言や叫び声を残した。

「なんだよ馬鹿野郎!」「わあーー!!」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

頑なな態度が翻ったきっかけは、ボードゲーム大会だった。

「本当に、ちょっとした勇気っていうか。ボードゲームが面白そうだったので、行ってみようかな。嫌ならすぐ帰ってくればいいやと」

長くひきこもっている人の場合、親や支援者がいくら働きかけても、外に出ようとしない人は多い。どうして勇気が出たのか重ねて聞くと、西沢さんはポツリとつぶやいた。

「寂しかったからですよ」

ボードゲームの他にも、料理、スポーツ、読書会など様々なプログラムがある。西沢さんは毎日のように通い、一緒に食事やカラオケに行く友人もできたという。