娘から言われた言葉にハッとする
作詞作曲をこなせるようになっても、その悩みを払拭することはできなかった。
「それで……。結婚に逃げたところもあったと思います」
歌手としてではなく、妻らしく、母らしく、女らしく生きてみよう。
2度目の結婚の際には、娘が生まれた。子どもの誕生はこれまでの人生で何よりも嬉しく、歌手としての活動を休止し、当時の夫を支える立場となり子育てにも全力投球をした。
しかし、そこにあったのは、ニセモノどころか、本当の自分を押し殺す日々だった。
そんな折。なにより本人が「歌う中村あゆみ」を求めていたことに、一番身近な存在からの指摘で気づく。
「娘が私のPVを見つけて『歌っているママかっこいい』といわれ、ハッとしたんです。そもそも娘も、私に対して良妻賢母を求めていなかったんですよね(笑)」
母であり、女であり、歌手・中村あゆみでいたいんだ。
シングルマザーとして生きることを決め、中村さんはもう一度ステージに戻った。
「『他人は他人、自分は自分』という心境になってから、私はすごく楽になったの。若いころはもっと自由に生きていたはずなのにね。あのときの娘の言葉で、見失いかけていた本当の自分に、気づくことができた」
そんな中村さんは、自分の経験を踏まえ、いま人生に悩んでいる人にこうアドバイスを送る。
「自分を俯瞰してみてほしい。生きるってすごくシンプルなことだって気づいてほしい。社会的にこうだから、っていう考え方はもう古いと思う。
あなたが今、悩んでいるなら、自分にとって何が気持ちいいか、好きか嫌いかでもっと判断していいんだよ、って」
歌手としての挫折があったからこそ、学んだ人生観。紡ぎ出される中村さんの言葉はとても優しさで溢れている。