調査対象者の浮気相手は、調査の依頼者だった……?
あれは数年前――なんの変哲もない浮気調査の依頼がきっかけだった。
依頼者は20代後半で上品な雰囲気の女性・みおさん(仮名)。
みおさんは、旦那さんの浮気を疑っていた。話によればここ数ヵ月、旦那さんの様子がおかしいとのこと。スマホは肌身離さず持っているし、急な外出や遅い時間の帰宅が増えたという。
実際に浮気をしているのか、していないのか。もし浮気をしているのであれば、どんな浮気相手なのか。「事実が知りたい」――そんな依頼だった。
浮気調査の依頼の場合、大きく分けてすでに対象者の浮気が確定しているパターンと浮気をしているかどうかがわからないパターンがある。みおさんの場合は後者。
みおさんの真剣な表情を見て、僕は依頼を受けることにした。
みおさんによれば、旦那さんは毎週土曜日の昼間にひとりでよく外出するという。
「じゃあ、次の土曜日に調査をしてみましょう」
こうして話がまとまった。
そして、次の土曜日――僕と相方の探偵は、みおさんの自宅前で張り込んでいた。
しばらくすると、対象者である旦那さんが自宅からひとりで出てきた。
尾行開始だ。
対象者は電車で都心方面へ移動し、あるターミナル駅で降りた。
家電量販店で家電を見たり、書店や洋品店に寄るなど普通に買い物をしている様子で、特に怪しい行動は見られないまま、夕方となった。
「これは、今日は何も起きないかな……」
そんな空気が漂いはじめるなか、事態は突然、動き出した。
対象者がとある店の前で急に立ち止まって、スマホを頻繁に操作しながら、周りをキョロキョロしだした。
「これは……浮気相手との待ち合わせかもしれない……」
そう考えた僕らは物陰に隠れて身構えながら、様子を窺っていた。
それから数分後、対象者の前に現れたのは……なんと、依頼者のみおさんだった。
「あれ? なんで、みおさんがここにいるの?」
当初は不審に思ったが、「あれじゃね? 依頼者さんが忘れ物でも届けに来たんじゃね?」と相方の探偵が言う。なるほど、それも一理あるかもしれない。
結局、「このまましばらく尾行を継続して、様子を見よう」ということになった。
コンビニへ入ったふたりは、お酒とお菓子を購入。コンビニを出たふたりはスタスタと歩きはじめ、向かった先はホテル街。そして、そのままラブホテルへチェックインした……!?
「えーーーー!? いや、いや、待てよ! 今日調査に入るって、みおさんは知っているはずだから、おかしいぞ!」
速攻でみおさんにLINEする。
「すみません、どういうことですか?笑」
既読がつくまでの間、相方の探偵と推理を巡らす。
相方「小沢君、あれさ、依頼者で間違いないんだよね……?」
小沢「間違いないです。僕は契約時に対面で依頼者さんに会っていますから、見間違いはないです。あんな感じの上品な雰囲気の方でしたから。でも、おかしいな……みおさんは、今日僕が調査に入ることは知っているはずなのに……」
相方「そっか……じゃあさ、もしかして依頼者さん、ちょっとそういう〝癖〟があるタイプの人なんじゃないの? ほら、自分のそういうシーンを他人に見せつけて興奮する人とかいるじゃん? だってそもそもこの案件、浮気相手がいるかどうかって定かじゃないんでしょ?」
……なるほど。たしかに一理ある。
となると、僕ら探偵はみおさんのプレイの前戯に利用されたというわけか……くそっ! 悔しいけど、なんか、ちょっと興奮してきたぞ。