神格化を意図したライティング
大谷の正面像に自身の言葉やキャッチコピーを組み合わせる表現は、ほかの企業の広告にも採用されています。なかには大谷が写る画面の中に、彼自身のメッセージが手書き文字で添えられるなど、商品やサービスよりも大谷の存在が強く印象に残るように構成されることもあります。
三菱UFJ銀行は、2019年から2025年3月まで大谷翔平を広告キャラクターに起用しました。2023年に店頭ポスターなどで展開された広告では、アップショットで捉えられた大谷の正面像に「あなたにしか描けない夢が、きっとある。You can be a challenger.」というキャッチコピーが太字で掲げられ、大谷による手書きの文字で「これからも自分の限界をつくらず、挑戦を続けましょう!」という呼びかけと署名が添えられています。
金利やサービス内容などの銀行の業務に関わる具体的な情報は記載されず、大谷はブランドイメージの担い手、さらには「価値」そのものを体現する存在として表現されていました。
寝具メーカーの西川は2017年から大谷と契約し、マットレス「エアー」の広告に起用していますが、広告と並んで「大谷翔平崇拝」を強く印象づけるのは、2023年から販売されているバスタオルです(*4)。

身長193センチの大谷のほぼ等身大・正面全身像の写真をタオルにプリントしたもので、大谷の存在を肌に触れるほど身近に感じたいという、熱狂的なファンの心理に強く訴えかける商品です。大谷の威光にすがりたい、ご利益にあやかりたいという企業と消費者双方の願望が、このような広告や商品を通して表現される「大谷翔平崇拝」の背景にあるのでしょう。
先述したように、筆者がコスメデコルテの広告から強いインパクトを受けた要因の一つは、大谷が「ほぼ正面から真っ直ぐ前を見つめている」ということです。デパートのコスメ売り場に掲出されるモデルの写真は、顔を傾げていたり、振り向くような姿勢だったり、四分の三正面で左右どちらかの目線を強調していたりと、買い物客の注意を惹きつけ、アイコンタクトを取ろうとするような視線で捉えられるのが一般的です。