女性を性感染症の「リスク」と位置づける誤った認識
厚生労働省が制作・配布している性感染症予防啓発ツールは、梅毒感染の急増を受けて表現の仕方も徐々に変化しています。
2013年度制作のポスターでは「性感染症 相手が増えればリスクも増える。」というキャッチコピーで、中央に置かれた男性のピクトグラムのついたハブに、女性のピクトグラムのついた赤いUSBケーブルが8本つながれています。
ポスター内のテキストは「感染のキケンを減らすには、複数の相手と無防備なカンケイをもたないこと。より効果的な予防のために、コンドームも忘れずに。」と異性愛男性に対する呼びかけの形をとっており、女性はもっぱら性感染症の「リスク」、すなわち男性の身体に脅威をもたらす存在として位置づけられています。

「性感染症 相手が増えればリスクも増える。」(厚生労働省、2013年度)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html
2023年度のリーフレットでは、イラストで男女二組のカップル(一組の方は女性が妊娠していることをうかがわせる描写)、男性同士、女性同士のカップルを描き、「性的接触があれば、誰でも感染する可能性」を明示しており、2013年度のポスターと比べると格段に性的関係の多様なあり方への配慮が反映されています。
しかし、「梅毒を放置するとあなたがきっかけで大切な人も感染する可能性があります」とあるように、「自分自身を守る」こと以上に、「大切な人」の存在に寄せて注意喚起する表現が用いられています。

「いま、梅毒が急拡大していることをご存知ですか?」(厚生労働省、2023年度)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html
あたかも「複数(不特定多数)の相手」と「大切な人」が常に別項目の中に存在しているかのように表現し、イラストやピクトグラムを多用してセックスや性感染症の要因について直接的な表現を避ける傾向は、厚生労働省の性感染症予防啓発広報に通底しています。