瘦せ型の「黒いオールドミス」
水商売の女性のみならず、オールドミスもまた、清張の“好物”である。
水商売の女性と同様にオールドミスも、当時まっとうとされた女性の生き方から外れた存在だったからなのだろう。主役・脇役を問わずちょくちょく小説に顔を出すのだが、彼女たちは大きく「黒いオールドミス」と「白いオールドミス」とに分けることができる。
清張が描くオールドミスには、二つの型があった。
一つ目は、体型は瘦せぎす、顔は不細工、性格は勝気で守銭奴、というもので、その三拍子が揃ったオールドミスを「黒いオールドミス」と呼びたい。黒いオールドミスは、清張が生み出したオールドミスの中では、多数派を占める存在である。
魅力の無い女を清張が書く時、その女はたいてい、瘦せぎすである。それはオールドミスに限ったことではなく、夫に不倫される古女房など、男性との縁が薄い女や愛されていない女は皆、瘦せている。対して、性的にお盛んな女性は皆、ほどよく脂肪の乗ったムッチリ体型なのだった。
黒いオールドミスたちは長い会社生活の間、容姿の美しい女性や若い女性ばかりちやほやされ、結婚という幸福を摑んでいくのを横目で見続けている。次第に自身の容姿は衰え、性格もねじれていくのであり、前出「年下の男」の加津子のように、頼れるものはお金だけ、となっていく。
爪に火を点すような節約生活でコツコツ金をためる彼女たちは、社内で高利をとって金を貸すという副業を、しばしば行っている。その様子が女性としての魅力をますます削いでいる、と描かれる彼女たち。
この時代、オールドミスは堂々と揶揄して良い対象だったのであり、晩婚化が進んだ世に生きる者としては、彼女たちへの同情を禁じ得ない。
たとえば、中編「馬を売る女」の主人公・花江は、秘書として小さな会社に勤める独身の31歳。やはり瘦せ型で、目は「眼鏡をはずした近視のように細く」、頰骨が出て、髪は縮れ気味、「男性に魅力を感じさせることの少ない独身女の典型」という書かれようである。
彼女もドケチであり、社内金融を営んでいるのだが、彼女の副業はそれだけではなかった。勤務先の社長は馬主であり、競馬関係の電話がよくかかってくるため、花江は秘書の立場を悪用して、その電話を盗聴。馬の情報を競馬好きたちに流して、情報料を得ていたのである。
彼女は相当なやり手であり、今であれば起業の一つもしていたのではないかという気がするが、しかし副業がアダとなり、結果的に殺されてしまうのだった。
古今の名作において金貸しは殺されがちだとはいうものの、哀れな最期である。
文/酒井順子