「自分で缶売って飯食ってんだオラ!」
しばらくして私はなんとなく点けた朝のテレビの情報番組に釘付けになった。自分のマンションの目の前が「新宿内の駐車場」として映し出されているのである。そして、顔にモザイクをかけられたおじさんがカメラクルーに向かって怒号を浴びせていた。
「自分で缶売って飯食ってんだオラ!」
朝の情報番組で腹がよじれるまで笑う経験は、後にも先にもないだろう。
おじさんは間もなくして、ニュースを観たか何かで冷やかしに来た通行人をぶん殴って刑務所に収容され、嵐のようにこの街を去って行った。溜まりに溜まったゴミは行政代執行で跡形もなく撤去され、空き缶とゴミだらけの駐車場は、何事もなかったかのように新しい駐車場へ生まれ変わったのだった。
あれから3年の月日が経ち、かつての駐車場の惨状が思い出に変わりつつあった頃、深夜に歌舞伎町の職安通りを歩いていると、とんでもない量の空き缶を積んだ見覚えのあるバカでかい台車を、サワガニくらいのスピードで、東に向かって押している2人組の男を発見した。
近寄って顔を確認すると、1人は知らん奴だったが、もう1人は紛れもなく3年前まで家の前の駐車場を占拠していたおじさんだった。
「昔、蟹の密漁してたおじさんですよね⁉」
「そう!」
刑務所を出たおじさんは身元引受人となったNPOから勧められるがまま生活保護を受給し、今は飯田橋方面にある部屋を借りている。
「家賃を払ったら月に7万円しか残らねえから、また空き缶拾ってんだ。部屋にいても何もすることねえし、体動かしたくなるからよ」
おじさんの見立てでは、空き缶は全部で約100キロある。新宿で売ると130円/キロにしかならないが、秋葉原まで持って行けば170円/キロまで跳ね上がる。
先週はたった1人で同じ量の空き缶を秋葉原まで運んだおじさん。丸2日間、ゾウガメくらいのスピードで荷台を引き擦り続け、秋葉原に着いたときには気絶寸前で、万世橋が霞んで見えたという。「さすがの俺でも無理」と悟り、運搬時だけまたアルバイトを雇っているのだ。