館もので倒叙ものでもあり○○トリックでもある
── 本作は、犯人視点で語られる「倒叙もの」のミステリー、という側面もあります。ゲストたちがこちらの思惑通りに動いてくれるのかというドキドキを演出し、主人公の心情に同期させて、なんとか計画がうまくいってほしいという暗い願いを読者に搔き立たせる。
確かに! 倒叙もののミステリーは、読むのは面白いけど、書くのは難しいだろうなと思っていたんです。彩莉を語り手にするのがこの物語にとって一番面白い、と思ったからそうしただけなんですが、期せずしてそうなってしまった。館もので倒叙ものでもあり、○○トリックでもある……最後のやつはさすがに伏せ字でお願いします(笑)。
── 彩莉の計画はある程度予定通りに進んでいくんですが、その先で新たな「館もので、こういうのなかったな」感が炸裂する。どこまでネタバレしてもいいでしょうか!?
第一の殺人が起こるところまでは、ぜんぜん大丈夫です。つまり彩莉は自分で一人目の男を殺す予定だったんですが、失敗してしまうんですよね。自分は何もやってないのに、死体が現れてしまう、館の中で殺人事件が起きてしまうんです。彩莉はその状況に気が動転し過ぎて、「えっ? 私、殺したっけ」とか言っていますけど。
── 本作には、シチュエーションコメディっぽい部分もあります。
実は、もともとそういうテイストが強く出る物語だと思っていたんです。ばりばりの本格ミステリーっぽい舞台で、ヒロインはすごく頑張って連続殺人の犯人になろうとしているのに、思惑通りにいかない。このシチュエーションを思い付いた時に、メインのトリックなどはぜんぜん具体的ではなかったんですが、私なりの館ものが書けると思ったんです。ただ、実際に書いていくうちに、どんどん本格ミステリーに近づいていった。「こことここ、辻褄合わなくない?」という部分を論理的に潰していく過程で、ミステリー度合いが上がっていったんです。
── シチュエーションコメディと「本格」との融合感が絶妙ですよね。状況はシリアスでミステリーの王道と言えるものなのに、ちょっと笑えるんです。
とにかく彩莉は、脇が甘いというか詰めが甘い、どじっ子ヒロインなんです。探偵役たちも、彼女が作ったたくさんのノイズのせいで混乱して、推理するための情報整理がうまくできない。そこもちょっと工夫したところですね。
── これ以上は何を言ってもネタバレなのですが、最後の展開は特に驚かされました。
ありがとうございます。その前までの驚きで十分面白かったなと思ってもらわないと、最後の最後で、本気でびっくりしてもらえないんですよ。だから……頑張りました(笑)。賞(日本推理作家協会賞短編部門)にノミネートしていただいた作品の入った『まぼろしの女』で、「本格だった」と読者やミステリー作家の方たちに言ってもらえて、ちょっと自信になって。今回も、『まぼろしの女』とは毛色が全く違う、だいぶヘンな話なんですが、読み終えた時に「本格だった」と思ってもらえたら嬉しいですね。
── 同じ世界観での続編も期待してしまいます。
もしかしたらあるかもしれませんね。基本的に、どの小説を書く時もシリーズ化のことは考えていないんです。この一冊でやり切る、出し切る、と常に思っている。ただ、これは続けられないだろうというものに限って、続編の依頼が来ることが意外と多いんですよ。『記憶屋』がそうでしたし、『花束は毒』もそうでした。今回の作品に関しても、実はついさっき編集さんから怖いことを言われたんですよ。ミステリーの王道を一個一個やっていくのはどうですか、次は「見立て殺人」でと言われて、おののいているところです。