単純接触効果と授かり効果で評価が高くなる
そう聞くと、単なる親切で礼儀正しい対応だと思うかもしれないが、じつは計算し尽くされている。アップルは潜在意識に働きかける2つの強力な呪文をかけているのだ。
まずは単純接触効果。製品に触れる機会を増やすことで消費者の愛着度を高める心理作用だ。そして授かり効果。消費者に製品を占有させることで知覚価値を高める。簡単に言うと、単純接触効果で製品をもっと好きになり、授かり効果で評価が高くなるというわけだ。
強引な販売よりも「所有体験」を生み出して売上を伸ばすのがアップルの狙いだ。アップルストアの提供する多感覚に訴える体験が、まさにそれを実現していると言えよう。
実際、その効果は絶大で、2003年、イリノイ州検事総長事務局はホリデー・シーズンの買い物客に対して、買い物の際には商品を所有物のように持たないよう注意を促した。いささか奇妙だが、これには30年間の研究によって裏づけられた根拠がある。
アップルの戦略にも根拠がある
2009年、ウィスコンシン大学で学生のグループに2つの商品(スリンキーとマグカップ)を評価させる実験を行った。
1回目は、一方のグループには商品に触れてもらい、もう一方のグループには触れることを禁じた。2回目は、前者には商品が自分のものだと想像してもらい、後者にはそう思うことを禁じた。すると、商品に触れたり自分のものだと想像したりするだけで価値の評価が高まった。
来店した客に対して、制限時間を設けずに、好きなだけ製品を試してもらうアップルの戦略にも根拠がある。製品に触れる時間が長いほど購入意欲が高まるという調査結果に基づいているのだ。