まず男性の頭蓋骨をかじり始めた 

2025年4月、ロシアの首都モスクワから約125キロメートル離れた森林地帯で、一人の男性がヒグマに襲われ、瀕死の重傷を負う事件が発生した。

ロイター通信が報じた内容によれば、被害者の男性は、シカやヘラジカが春に落とす角を収集して生計の一助としていた。男性が森深くで角を探していた際、巨大なヒグマが背後から音もなく忍び寄り、男性を襲撃した。

ヒグマは男性に襲いかかると、まず男性の頭蓋骨をかじり始めた。次にヒグマは抵抗できなくなった男性の体をひっくり返し、男性の顔面をむさぼり食べ始めた。絶体絶命の状況下で、男性は意識を失ったふり、すなわち死んだふりをすることで、九死に一生を得た。

「ヒグマが私の頭蓋骨と顔面をむさぼってる…」なぜ日本人は”ロシアの残虐事件”を見ぬふりで凶暴な猛獣を駆除しないのか _3
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捕食行動を中断したヒグマは、獲物が死んだと判断したのか、やがて男性をその場に放置して去っていった。重傷を負いながらも意識を取り戻した男性は、自ら緊急サービスに通報した。救助隊が男性を発見するまでには数時間を要した。

救助隊は徒歩で広大な森林を捜索し、ようやく男性を発見。男性はその後、ヘリコプターで病院に緊急搬送された。ロシアの多くの地域ではクマの狩猟は合法である。しかし、事件が起きたモスクワ周辺地域は例外的に狩猟が禁止されていた。

このロシアの事件が示す事実は一つである。クマは、時に人間を食料と見なす極めて危険な猛獣である。頭蓋骨をかじり、顔面を食べるという行為は、単なる威嚇や自己防衛ではない。それは野生動物が行う純粋な捕食行動に他ならない。

まず人間社会の安全を徹底的に守り抜くという国家の強い意志を

日本で頻繁に語られる「共存」という言葉は、クマが本来人間を避け、一定の距離を保つという性善説に基づいている。

しかし、里山という物理的・心理的な緩衝地帯が崩壊し、人里の食べ物の味を覚えた日本のクマは、もはや人間を恐れていない。栃木県での襲撃事件や北海道での死亡事故は、ロシアの事件と本質的につながっている。

最も重要なのは、クマを保護すべき野生動物と見なす視点と、人の命を奪いかねない危険な猛獣と見なす視点の両方を持ち、現実的な対策を講じることである。

住民の安全確保を議論の余地なき最優先事項と定め、危険な兆候を見せる個体、人里への執着を断ち切れない個体については、躊躇なく駆除を実行する断固たる体制を構築する必要がある。

猟友会のような現場の知見を持つ専門家たちが、行政の煩雑な手続きに手足を縛られることなく、即座に行動できる権限と法的な後ろ盾を与えるべきである。

クマとの共存という美しい理想を語る前に、まず人間社会の安全を徹底的に守り抜くという国家の強い意志が求められている。

感傷的な動物愛護の視点から一歩退き、科学的根拠に基づいた厳しい個体数管理を開始することこそ、日本のクマ対策が直ちに実行すべき、唯一の現実的な道である。

文/小倉健一