「薄っぺらい参政党などのポピュリズムに走ってしまった結果…」

武見氏は選挙戦で訴えた「健康長寿社会」への思いをひとしきり語ると、敗因をこう分析してみせた。

「少子高齢化、人口減少の中でどうしても高齢者が当然に増えるとすれば、若い人たちの負担がどうしても増えてしまう。この負担の増え方に関わるやはり社会的なフラストレーションというものが若い世代の皆様方の中にはかなり大きく塊としてあって、それが1つの批判として現れてきたものだというふうに受け止めました」

現行の社会保険制度では、武見氏が訴える「高福祉」の国家ビジョンを実現させるためには現役世代への負担がどうしても大きくなる。野党各党が、社会保険料の負担率の高さを選挙戦の争点に据えている中、こうした政策は、若年層からの反発を招きやすいのは言うまでもない。

「健康長寿社会」を掲げる自身の姿勢が、「既得権」側に寄り添うものであると捉えられていたと自覚している様子が武見氏の言葉の端々からうかがえる。

選対本部長を務めた平沢勝栄衆院議員
選対本部長を務めた平沢勝栄衆院議員

選対本部も落胆の色を隠せなかった。

選対本部長を務めた平沢勝栄衆院議員は開票センターから出たあとの直撃取材で、「見ればわかるじゃない。見ればわかるでしょ」とボソボソと小さい声だったものの苛立ちを隠せなかった。「例えば、これだけ大きな投票行動の変化というか。ね、大きな負けというか。ここまでの大敗。大きな変化が起きたんだ」と訴えた。

そして、「謙虚になること。謙虚になれなかったよね。今回の選挙は。全員、謙虚であったかなんて全然言えない。誰も言えない。自民党の信頼を取り戻すために謙虚にならなければいけないんだけどね。でも誰もできなかった」と自戒するかのようにつぶやいた。

日本医師会に所属しているという支援者の60代夫婦は、「武見先生は、医学知識のほか海洋学、外交や領土問題にも精通していて、ほかの政治家と比べて知見が深い政治家だった」と悔しさをにじませた。そして、さらにこう続けた。

「それが国民の人が理解できなかった。薄っぺらい参政党などのポピュリズムに走ってしまった結果。日本は終わりです」

会場を出る武見氏の背中越しに、テレビモニターは医師夫婦から「薄っぺらい」とこき下ろされた参政党の躍進を伝えていた。彼らに票を投じた中には、「上級国民」である医師夫婦から“国民の人”と見下された市井の人もいたであろう。

分かれた明暗は、今の日本社会が抱える分断の遠景でもあるかのようだ。

武見氏は20日夜、自民党本部で開かれた囲み取材で「国会議員としての自分の役割は終わった」と述べ、政界引退を表明した。関係者によると今後は、「従来取り組んできたグローバルヘルスに尽力する」という。

また、武見氏は20日夜、東京都医師会間前で同席していた山田みき氏らに対して、「今度、選挙頑張ってね。みんな応援しているから。とにかくあなたがたに日本を立て直してもらう。そういう仕事をしてもらわないと。今回はただ分裂しただけ。新しく未来を設計する仕組みに、今回は全然なっていない。ただ、壊しただけ。立て直す必要がある。それは次の総選挙だ」と述べたという。

東京都医師会館(撮影/集英社オンライン)
東京都医師会館(撮影/集英社オンライン)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班