特区民泊のルール違反疑いに新たな証言

さらに、関係者によれば6月末の“期限”までに複数の住民がマンションを引き払うことを決めてしまったもようだ。前述の通り住民には通知に従う義務はないが「(通知の要求が)あまりにあり得ない内容で、怖くなったから」と住民の一人は話している。

問題があると認識する通知をなぜ出したのか。B社の説明は続く。

〈借主様への通知に関して特段の依頼を貸主様より受けた場合、管理契約に従い、弊社は対応せざるを得ないと考え、そのため、貸主様を説得し、せめて「お願い」の形とした内容で、 貸主様の依頼に基づき、弊社が送付等の事務を行いました。ただ、通知書面中弊社を「差出人」ではなく、「問い合わせ先」とした方がよりよかったものと思います。〉

不動産専門会社のB社も問題があったと認めた以上、X社は明け渡し要求を維持するのは困難だろうと関係者は話す。

マンションのゴミ捨て場に捨てられていた使い捨てスリッパ
マンションのゴミ捨て場に捨てられていた使い捨てスリッパ

いっぽう、マンションは21室のうち10戸に賃貸契約による住民が住み、残る11戸が「特区民泊」として使われてきたもようだ。

特区民泊は国家戦略特別区域法に基づき旅館業法の特例として営業が認められ、2泊3⽇以上から貸し出しができ、⼈数制限もないなど開業のハードルが低い。戦略特区となっている大阪市では4⽉末時点で6194施設が認定され、責任者である“営業者”が中国系の人物や企業である施設が多い。

今回舞台となったマンションは2019年9月に中国系の投資会社Z社が新築し、Z社の“代理”を名乗っていたY商事が大阪市から民泊の認可を得ている。その後、建物は2023年10月に中国系とみられるX社に売却され、同社が賃貸も民泊経営も主体となっているとみられる。

「しかし現在民泊の認可を受けているのはY商事とみられます。特区民泊の認可は引き継ぎができないため、現在X社が経営しているのなら認可を取り直す必要がありますが、それが行なわれていない可能性があります。

またマンションは全室が25平方メートル以上という特区民泊の広さ基準を満たしていない疑いもあり、大阪市保健所が調査に入っています。いずれの問題も違反が認められれば、営業は禁じられます」(大阪市関係者)

特区民泊事業者は、右の標識を出入り口に掲示する責務がある(大阪市HPより)
特区民泊事業者は、右の標識を出入り口に掲示する責務がある(大阪市HPより)

民泊経営が禁じられれば、オーナーは収入を少しでも維持するため賃貸契約の住民には出て行ってほしくないと考え、明け渡し要求を撤回することも考えられると関係者は指摘する。

さらに、特区民泊のルール違反に絡みマンションの関係者が新たな証言をした。

「特区民泊の事業者は苦情に対応する者の名前や連絡先を書いた標識を施設の出入口に掲示する責務がありますが、それが今ないんです。実は以前は標識がエントランスに貼られていました。でも1年かもう少し前にはがされた気がします。

オーナーが替わった時期かもしれません。その時は標章がないことがルール違反だとは知らず、気にも留めなかったんです。

そのころから玄関に旅館風ののれんが掛けられたりして、民泊経営を重視し始めました。オーナーが替わったのに認可が取り直されていないのなら、標章がはがされたことと関係があるかもしれません」(関係者)

マンションのエントランスに残る、特区民泊の標識のシールをはがした痕
マンションのエントランスに残る、特区民泊の標識のシールをはがした痕
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仲介会社も問題があると認めた明け渡し要求。住民の生活が平穏を取り戻すことはできるのか。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班