予言を信じて経済にも実害
事の発端は、漫画家・たつき諒さんが1999年に発表した短編エッセイ漫画『私が見た未来』。特徴は、彼女が夢の中で見た未来の出来事を「夢日記」として記録し、それをもとに作品としてまとめた点にある。この作品は以前、東日本大震災を予言したとして話題になった。
その後、絶版となっていたが、2021年に『私が見た未来 完全版』として再刊されると注目が集まった。新たに収録された「2025年7月に大災難が起きる」という予知夢の記述が近頃、SNSなどで話題になっているのだ。
特に“7月5日”という具体的な日付と、“早朝4時18分”という時刻の描写が人々の不安を刺激している。
この“予言”は国内にとどまらず、香港、中国、ベトナム、タイなどアジア各国でも拡散。中でも香港では、著名な風水師による「7月に日本で大災害が起こる」との発言もあり、たつき諒さんの予知夢と重なって不安が急拡大したという。
日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2025年5月の香港からの訪日客は前年同月比で約11%減少。異例の落ち込みを受けて、気象庁は「予言は科学的根拠のないデマである」と注意喚起に踏み切った。
こうした「7月5日の大予言」が巻き起こす空気は、1999年に日本中を覆った“ノストラダムスの大予言”を彷彿とさせる。
フランスの16世紀の予言者ノストラダムスが書いた曖昧な詩が「1999年7月、世界が滅ぶ」と解釈され、五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』(1973年)はシリーズ累計600万部を超えるベストセラーに。テレビや雑誌では連日の特集が組まれていた。
1999年を前に「どうせ地球が滅びるなら働く意味がない」と考え、仕事を辞めて田舎に移住したり、退職金で旅行に出たりする人も続出した。ドキュメンタリーやトーク番組でも終末論が飛び交い、『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』といった国民的漫画・アニメでもノストラダムスをテーマにしたエピソードが制作された。
さらに人気テレビ番組『進め! 電波少年』では、予言に備えて地下にシェルターを作るという企画も放送され、笑いと不安が入り混じった社会現象となった。