10年ぶりの現場復帰
2023年8月21日、横浜市内のグラウンドで、楕円(だ えん)形のボールを追う女子選手たちを少し離れた場所から静かに見つめた。この年の2月、女子ラグビーチーム「横浜TKM」の監督に就任した。監督として10年ぶりの現場復帰となった。
以前から競技の裾野を広げる活動には熱心だった。03年にタックルのない「タグラグビー」を教えるNPO法人「横濱ラグビーアカデミー」を設立。大学の天然芝グラウンドを開放し、練習や大会を続けてきた。「エンジョイ。楽しんで」。大学を辞めた後は、公園で子供5人を相手に指導したこともある。
自らグラウンドを走り回った以前とは異なり、今は細かい指導をコーチ陣に任せることが多い。「コーチたちの仕事をやりやすくするのが大切だ。もうワンマンではできない」。年齢を重ね、栄光と挫折を経験したことが、変化を促した。
「お帰りなさい」。今回の監督就任にあたり、リーグワンの地元チーム幹部から声をかけられた。涙が出そうになった。「もうラグビーはできないと思ったこともあったが、この年になってもまだやっている。本当に幸せだよ」。新たな挑戦を始めた名伯楽の「仲間作り」は続く。
文/大前勇・読売新聞社会部「あれから」取材班
『「まさか」の人生』(新潮社)
読売新聞社会部「あれから」取材班
2025年5月19日
1,034円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4106110894
大人気ゲーム「ぷよぷよ」を失ったプログラマー、野茂をメジャーに流出させた300勝投手、箱根往路のゴール目前で倒れた大学生、石器発掘の〈神の手〉に騙された研究者――。人生には「まさか」がついて回るが、ニュースになるほどの不運や失敗に見舞われた人々は、その渦中にあって何を思い、その後も続く長い人生をどう生き抜いてきたのか。知られざる軌跡と人間ドラマを描く人気連載、待望の新書化!
(目次)
はじめに
1 「ぷよぷよ」生んだ会社がはじけ、消えたワケ
2 山一元No.1営業マン、再就職先では「最低なサラリーマン」に
3 文民警官がまいた種――息子はカンボジアに殉じた
4 「野茂をメジャーに流出させた」300勝投手、名監督にあらず
5 技術は負けていなかった 「一太郎」vsマイクロソフト「ワード」
6 分離手術を受けたドクさんは、ベトさんを失った
7 日本初の生体肝移植、執刀医の「決断」
8 裏切られた名監督 関東学院大学ラグビー部の綻び
9 「あの日」「あの日々」を越えて 三陸鉄道はまだやれる
10 中国で突然拘束、2279日間の苦難
11 初の「セクハラ訴訟」原告A子が実名を名乗った日
12 「お前はグルか、バカか」〈神の手〉にだまされた研究者の20年
13 女子よ見てくれ!「ウォーターボーイズ」部員たちの進路
14 銀座に上陸したマクドナルド1号店、お客が来ない日々
15 「甲山事件」逮捕された「悦っちゃん先生」の50年
16 運営ミスで失格 目前で「五輪内定」を逃した競歩エース
17 「地下鉄サリン事件」が出発点、警視庁初の科学捜査官
18 箱根駅伝、途切れたタスキ 再び「山登り」に挑んだ順大3年生
19 「懸賞生活」乗り越え 喜劇俳優の「自分だからこそできること」
20 挑戦者2万人「アメリカ横断ウルトラクイズ」優勝者の覚悟
おわりに