10年ぶりの現場復帰
2023年8月21日、横浜市内のグラウンドで、楕円(だ えん)形のボールを追う女子選手たちを少し離れた場所から静かに見つめた。この年の2月、女子ラグビーチーム「横浜TKM」の監督に就任した。監督として10年ぶりの現場復帰となった。
以前から競技の裾野を広げる活動には熱心だった。03年にタックルのない「タグラグビー」を教えるNPO法人「横濱ラグビーアカデミー」を設立。大学の天然芝グラウンドを開放し、練習や大会を続けてきた。「エンジョイ。楽しんで」。大学を辞めた後は、公園で子供5人を相手に指導したこともある。
自らグラウンドを走り回った以前とは異なり、今は細かい指導をコーチ陣に任せることが多い。「コーチたちの仕事をやりやすくするのが大切だ。もうワンマンではできない」。年齢を重ね、栄光と挫折を経験したことが、変化を促した。
「お帰りなさい」。今回の監督就任にあたり、リーグワンの地元チーム幹部から声をかけられた。涙が出そうになった。「もうラグビーはできないと思ったこともあったが、この年になってもまだやっている。本当に幸せだよ」。新たな挑戦を始めた名伯楽の「仲間作り」は続く。
文/大前勇・読売新聞社会部「あれから」取材班