あり得ない米国の製造業復活
トランプは米国の製造業を復活させると意気込んでいるが、そのための条件としてドル安は必須条件である。そこを説明してみたい。
これは、なぜ日本政府・日銀が今、ドル/円を円安に誘導したのかということにも通底する。これはかねてより申し上げてきたように、一種の水準訂正、つまり「円の隠れ切り下げ」と捉えるべきである。
これには二つの意味があって、一つは海外に投資をしている日本企業がかなり多いという事情があり、彼らは押しなべて膨大な資産を持っている。つまり、彼らは昨今の円安により、凄まじい〝含み益〟を得ている。
含み益が出たうえに、日本での土地購入、工場建設などの運用費用がドル建てにすると大きく減った。ということは、俄然日本に投資しやすくなった。
おそらくこうした状況下、日本政府は「こういう環境だから、もっと日本に投資してほしい」と当該日本企業に促しているのではないか。これが一つ目。
もう一つは、これだけの円安になってきたことから、海外の企業からの直接投資もしやすくなった。そして、直接投資額として対GDP比で、日本と中国は逆転したことから、これから日本企業の直接投資は増えるものと思われる。当然ながら、1ドル=100円よりも1ドル=150円のほうが、日本には投資しやすい。
こうした観点で考えると、自国の通貨安はどうしても輸出競争力を高めることになる。自分のところで、モノを安くつくれるわけだから。
例えば、昔は中国が1000円で生産していたモノを日本は2000円で生産していた。いまは中国が1000円で生産しているモノを日本は1500円で生産しているが、日本のモノのほうが質が高いから、プレミアム分を考慮すれば問題ない。そういう考え方ができるようになる。
トランプは口先だけで言っているかもしれないが、本当に米国を製造大国に復活させたいのであれば、為替をドル安に誘導しなければならない。ドル安にして、製造業に対し、米国で生産してもいいと思わせないといけない。つまり、他国の製造業がいま以上に自国から米国に“直接投資”したくなる環境を整えなければ、それは絵に描いた餅でしかない。
けれども、通貨のドルは高いし、さらに米国に工場をつくったところで、工場労働者は滅茶苦茶に高い賃金を要求してくる。すでにつくってしまった設備は別として、現時点で米国に製造設備をつくる外国企業はおいそれとは見当たらない。