私たちは搾取される「クラウド農奴」になった
「アマゾンが資本主義市場でないとしたら、アマゾン・ドットコムという場所はいったいなんなのか?」と、数年前、テキサス大学の学生に聞かれた。
「デジタル版の封建領地のようなものだ」。私は直感的にそう答えた。「ポスト資本主義の時代のね。その歴史的なルーツは封建時代のヨーロッパにあるけれど、未来型のディストピア的なクラウド資本がそのルールを決めている封建領地だ」。
それ以来、このときの自分の発言は、あの難しい問いに対するそれなりに正しい答えだったと確信するようになった。
封建制のもとでは、領主はいわゆる「封土」を「封臣」と呼ばれる家臣たちに与える。この封土とは、領主の領土の一部において経済的な利益を搾り取る権利を封臣たちへと正式に与えるものだ。たとえば、その領土に作物を植えたり、そこで家畜を放牧したりする権利である。
封臣は見返りとして生産物の一部を領主に納める。領主は執行官を派遣して、封土での生産を監視し、支払われるべきものを徴収する。
アマゾンに出店する事業者とジェフとの関係は、これとそう違わない。ジェフは事業者にクラウドベースのデジタルな封土を与え、手数料を受け取り、アルゴリズム執行官に監視させて徴収するのだ。
アマゾンは始まりにすぎなかった。アリババは同じやり方で、中国で似たようなクラウド封土をつくり上げた。アマゾンを模倣したEコマース・プラットフォームが、グローバル・サウスでもグローバル・ノースでも、至る所あちこちで生まれている。
さらに重要なのは、ほかの産業部門もまたクラウド封土に変わりつつあることだ。たとえばイーロン・マスクが成功させた電気自動車のテスラを例にとってみよう。
投資家がテスラをフォードやトヨタよりはるかに高く評価するひとつの理由は、テスラ車のあらゆる回路がクラウド資本に接続されていることにある。
たとえば、運転者がテスラの意向に沿わない使い方をした場合には遠隔操作で電源を切ることができるし、運転しているだけでオーナーはリアルタイムの情報(どんな音楽を聴いているかも含めて!)を提供していることになり、テスラのクラウド資本を豊かにしている。
自覚していないだろうが、最新の空気力学で輝くテスラを手に入れた鼻高々のオーナーこそ、まさに「クラウド農奴」なのだ。
心揺さぶる科学的発明や、幻想的な響きのニューラル・ネットワークや、想像を超えるようなAIプログラムは、なんのために必要だったのだろう?
それは倉庫で働く人、タクシーの運転手、食品のデリバリーをする人たちを、クラウド・プロレタリアート(注:クラウドベースのアルゴリズムによって肉体の限界まで働かされる賃金労働者)に変えるためだ。市場がますますクラウド封土に置き換わるような世界を生み出すためだ。事業者に封臣の役割を押しつけるためだ。
そして私たちみんなをクラウド農奴に変え、スマートフォンとタブレットに釘づけにして、封建領主をこのうえなく喜ばせ続けるためなのだ。
文/ヤニス・バルファキス 写真/shutterstock