「上がり」になっても、そのままリタイヤというケースは稀
さらに、会社を興した創業者に多い「ファウンダーあるある」としては、筋のいいスタートアップへの投資話が舞い込むケースが増えることです。なので、そこでまたお金を増やすチャンスを得るのです。
金融エリート系よりベンチャー経営者系の人にそういった投資話が舞い込みやすい理由については、端的にお伝えすると、自身の経営するベンチャーで成功した人がスタートアップに資本参加してくれると、企業側は経営指南の可能性にも期待できるだけでなく、「あの成功者が出資している企業」としてのお墨付きを得られて、その後の資金調達もしやすいというメリットがあります。
そうやって、VIPのみが参加できる超優良ポートフォリオのチケットを手に入れたベンチャー経営者系出身の人たちは、満を持して富裕層の世界へ昇っていくことになります。
ベンチャー経営者系出身で富裕層の仲間入りをした人のなかには、先ほど説明したIPOやM&Aといった大イベントで富を築いた結果、20〜40代で億を手にして早々にリタイヤする人もいます。
ただ、早いうちから「上がり」になっても、そのままリタイヤ、というケースは稀だと思います。
そもそも同世代の友人なら彼らにも自分の仕事があるので、余暇を一緒に付き合ってもらうことが叶いません。
たとえ飲みに行っても「おごるから」と10万円以上するワインをあけられても、相手はドン引きするだけでしょう。一線を退いているので、社会や経済、自分が働いていた業界のニュースすらも段々わからなくなり、友人たちとも距離ができはじめるようになってしまいます。
充電と称して長期の旅に出ることもあります。ところが、もともといろいろなことに興味があるタイプだからこそ成功にいたるベンチャー経営者系の人たちは、リタイヤ後1〜2年を旅に出て充電できた頃にはもう、自分が仕事をしない状態に飽きてしまっています。
そこで、SNSなどで「もう一度、起業します」などと宣言し、シリアルアントレプレナーとしてふたたびマーケットに戻ってくるケースもあるようです。
プライベートでは、ベンチャー経営者系の富裕層はおおらかでお金の使い方も気前がいいというイメージです。
僕の経験でも、「あそこに別荘があるけれど、よかったらいつでもどうぞ」「サウナ付き会員制のバーに専用のワインセラーもあるので好きに飲んで」という驚くべき気前のいい人たちとの出会いが何度もありました。
こんなふうに、富裕層の世界に行く人たちをあえて分類してみると、金融エリート系とベンチャー経営者系の2パターンがあると感じています。
よく、スキルや知識を表現するのにブックスマートとストリートスマートという言葉が使われます。ブックスマートとは教科書や本を読んで学ぶ、知識があって頭のいい人のことで、ストリートスマートとは実際の経験や現場をもとに学ぶ、賢い人のことを指します。
僕は金融エリート系とベンチャー経営者系はこの表現に似ているなと思うことがあります。派手なリスクはとらず、やるべきことをやって上がっていく金融エリート系はブックスマート的な富裕層への上がり方。大きなリスクをとりながらストリートでファイトして、1億に届いた後も1000億に膨らませていくようなベンチャー経営者系はストリートスマート的な富裕層。
どちらも同じ「億円」を超える目標。でも、行き方も生き方もまったく異なります。自身の性格ややりたいこと、やれることを見極めて、道を選ぶといいでしょう。
文/田中渓 写真/Shutterstock