ホリエモンのロケットの燃料に

大樹町は、酪農の大産地であると同時に、1985年から〈宇宙のまちづくり〉を掲げ、航空宇宙産業を誘致してきた。今では〈宇宙版シリコンバレー〉をつくることを目指している。

町内には、宇宙関連企業が拠点を置く。その一社が、実業家でタレントのホリエモンこと、堀江貴文氏が創業者で取締役を務める、インターステラテクノロジズ株式会社(IST)だ。

同社は、ロケットの開発、製造、打ち上げを行う。文部科学省の支援対象に選ばれており、数十億円の補助金を受け取ることが決まっている。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

先に触れたように、乳牛の糞尿に由来する液化バイオメタンが、トラックや船舶の燃料に問題なく使えることは実証済み。今度はロケットの燃料に使う試みが、同社によってなされている最中である。

ロケットの燃料として主流だった液体水素は、蒸発しやすいため扱いにくかった。それに対して液化バイオメタンは安全性が高く、成分が安定している。蒸発が少なく、密度が高い分、燃料タンクを小さくできる。

こうしたメリットを理由に、メタンの採用が世界で進みつつある。中国の宇宙ベンチャー・藍箭航天空間科技(ランドスペース)は2023年、液化メタンと液体酸素を燃料にしたロケットの打ち上げに、世界で初めて成功した。

起業家のイーロン・マスク氏がCEOを務めるアメリカのスペースXも、燃料に液化メタンを使うロケットエンジンを開発している。インターステラテクノロジズは、新型ロケット「ZERO(ゼロ)」の燃料に牛糞由来の液化バイオメタンを使おうとしている。

エンジンを燃焼させる実験を2023年12月に大樹町のロケット発射の拠点である宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」で行った。

バイオメタンを使ったロケットエンジンの燃焼試験は、世界で二例目、民間としては初という。なお一例目は、ヨーロッパの22カ国が加盟する宇宙開発機関である欧州宇宙機関によるものだった。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

インターステラテクノロジズの実験の映像を見ると、シューッというガスの噴出音の直後に、ゴーッという音をあげて勢いよく炎が噴き出していた。赤い炎が見る見るうちに青白く色を変え、10秒間の燃焼が予定通り成功した。

液化バイオメタンの強みは、99パーセント以上がメタンという純度の高さにある。不純物によるエンジンへの悪影響が少ない。

牛糞由来で安定して入手できるため、同社はエア・ウォーターからの調達を決めた。

ロケットが宇宙へと飛び立つ日を目指して、大樹町で酪農家の夢を背負ったエンジンの開発が続く。

文/山口亮子 サムネイル/Shutterstock

『ウンコノミクス』 (インターナショナル新書)
山口 亮子 (著)
『ウンコノミクス』 (インターナショナル新書)
2025年4月7日発売
1,045円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4-7976-8156-7

ウンコを経済やエコロジーの視点で見つめ直す!
肥料、熱源、燃料、医療…。その活用分野は想像を超える。
ウンコ活用が日本の切り札になる!

日本人は平均で1日200グラムのウンコを排出する。
米国の150グラム、英国の100グラムと、欧米人と比べても多く、
日本は世界有数のウンコ排出大国だ。

近年、リンの主要産出国である中国が禁輸に動いたり、
ウクライナ危機でロシア、ベラルーシからの肥料の輸入が減ったことで、
世界的な肥料不足が懸念されるなか、ウンコの活用が世界中で注目されている。

肥料だけではない。
養殖海苔に窒素やリンを供給する栄養塩として、
下水熱を使ったビル空調や、冬場に凍結した雪を融かす熱源として、
また、自動車燃料、発電、宇宙ロケットの燃料として、
ウンコの活用分野は、我々の想像よりずっと幅広い。

ウンコとゴミでできた大阪万博会場の夢洲の問題点や、
羽田空港と隣り合う日本最大の下水処理場のレポートを交え、
日本経済を立て直す「ウンコノミクス」の可能性を探る。

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon