映像業界の新たな才能・岩井と映画嫌いだった中山の邂逅
岩井監督の『Love Letter』は1995年に劇場公開された。
直前には、1993年にフジテレビのオムニバステレビドラマ『if もしも』の一編として放送された『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』を手がけ、日本映画監督協会新人賞を受賞。同作は再編集されて1995年に劇場公開された。
当時、岩井監督の手がけたフジテレビ系列の深夜枠でのドラマ作品は、一部のドラマファンや業界関係者からはすでに注目されていた。
その後、業界内外から注目を浴びるようになった岩井監督が監督・脚本を手がけ、中山さんが一人二役を演じて主演をした長編映画が『Love Letter』だった。
連続ドラマや単発ドラマにも数多く出演していた中山さんだったが、この時点で映画には4作品しか出演していない。
中山さんと初対面となった岩井監督は「私、映画って好きじゃないんです」と言われて困ってしまい、「一緒に好きになっていきましょう」と声をかけたと明かしている。
三回忌の帰り道、樹の家を訪れた博子は、樹の中学時代の卒業アルバムから彼がかつて住んでいた小樽の住所を見つけ出した。 博子は忘れられない彼への思いをいやすために、 彼が昔住んでいた小樽=天国へ一通の手紙を出した……。
ところが、あろうはずのない返事が返ってきた。やがて、博子はフィアンセと同姓同名で中学時代の同級生、ただし女性の藤井樹が 小樽にいることを知る。〉(公式サイトより)
今作で中山さんは渡辺博子と博子のフィアンセと同姓同名の女性、藤井樹を一人二役演じることになった。終盤でなぜ彼女たちの顔が似ていないといけないかの理由やその演出の意図が明かされるような種明かしがある。
そのためにも演技力のある女優が二人の女性を演じ分けなければならなかった。
アイドル時代の中山さんはコミカルで明るい役が多かったのもあり、岩井監督は恋人を亡くして傷心の渡辺博子を演じることができるか心配していたという。
しかし、実際に対峙した中山さんは「テレビで見る“演技”とは違って、彼女はすごくトーンの落ち着いた、内面を感じさせる人」であり、素の彼女は渡辺博子に近かった。
渡辺博子とは正反対で、どちらかというとちゃきちゃきしたはっきりものを言う藤井樹は中山さんが今までドラマで演じてきたタイプに近く、岩井監督の心配は杞憂に終わった。
最終的に二人を見事に演じ分け、今作で女優としての演技に手応えを感じた中山さんは、それまではどうしてもアイドルとして求められる作品が多く、時代や世間から求められるアイドル観のなかにいたが、そこを抜け出して大きな自信となったと語っている。
かつてアジア圏内では海賊版で広まった『Love Letter』は各国で正式に上映されるようになると、もっときれいな映像で観たいというファンたちが足を運んだことで大ヒットにつながっていった。
公開30周年記念で4Kリマスターされた今作は日本だけでなく、また海外でも多くのファンたちに、新しい観客たちに中山さんの魅力を伝えていくだろう。
文/碇本学