辞めていく国家公務員

服部 ありがとうございます。そうはいいつつも、学生間で官僚になることの人気が低下していること自体は、公務員自身も感じていることだとおもいます。最近では、国家公務員が辞める傾向にあることも多く報道されます。こういった流れはどう考えていますか。

神田      世の中がいい意味でも悪い意味でもすごく変わったということです。言ってみれば、時代が流動的になり、保守的に組織にしがみついたり、リスクテイクから逃げていれば人生が保証されるような時代ではないということは、多くの人はわかっています。

むしろ逆で、世の中が流動的なのだから、無限のオポチュニティ(機会)が広がっており、そこに自由に羽ばたくことができるようになった。そのこと自体は、昔のように、大企業や役所に何とか入って、死ぬまでへばりつくよりははるかにましだと思います。

世界情勢が人類の歴史的な岐路と言っていいぐらい変化しており、古今東西から学んで、教科書に載ってない答えを自ら考え、関係者に説明して、実現していかなければいけない、そういう時代なんです。

それは公務も民間も変わらないと思います。そのためには自分で考える論理的な思考力も必要だし、幅広い関心を持つことも必要です。それがないと、いい仕事ができないし、でも逆に、その力があればあるほどリターンもある。つまり、より大きな仕事ができる、よりやりがいがあって、豊かな人生になるんだろうという気がします。

欧米だけじゃなくて、途上国のエリートはもっと勉強してますよ。もっと夢があって、アンビションがあって、社会を私が変えるんだ、そのために勉強するんだ、はい上がるんだ、といったハングリー精神があります。グローバルな労働市場はもうそうなってるので、努力しないと満足のいくような成果が得られないかもしれません。単に組織の歯車でいて幸せになれるかといったら、そういう時代ではないんだと思います。下手したらAIの奴隷になってしまいかねません。

服部 公務員の働き方は、当然、政治の影響を受けますが、政治家に振り回されると考えている学生も多い気がします。その点はどうでしょうか。

神田 私自身はそういう経験が全くないんです。いろんな耳障りなことを、歴代政権の偉い人たちに言ってきましたけど、クビにもとばされてもないでしょう。むしろ、偉い人はイエスマンばかりに囲まれるのも判断を誤るので心配になると思います。しっかり理論武装して、正しい志をもって対応すれば、政治も理解してくれることが多いですし、逆に、そのプロセスをうまく通さなければ、大きな改革はできませんから、やるしかないわけです。そんなに苦痛だとおもったことはないですし、結構、達成感はあります。

是非とも学生の皆さんに、公務員になる面白さ、やりがい、責任感、達成感を伝えたい。揺るがないのは、例えば地震や津波があったら、公務員が真っ先に駆けつけます。世界の金融危機が起こったら、時には徹夜でやるときもあると思います。でも、それはそれだけ社会に必要とされてる役割であり、むしろ頑張って、そのときのために勉強しておいて、少しでも社会を守れたり、あるいは、1人でも助けることができて、勉強しておいてよかったという幸せを実感することができると思っています。

一方、有事じゃないときは、読書をしたり、霞が関以外の人との交流したり、いろんな人と交わりあい、趣味を充実させ、スポーツなどで心身を健全化する必要があります。また、最近では働き方改革も驚くほど進んでいます。今では、残業時間も平時には劇的に縮減されているし、育児休暇の取得も進んでいます。定時退庁、長期育児休暇などが当たり前になったことは素晴らしいことです。もちろん、まだまだ直さなければならないところはありますが、誤解のために人気が落ちている点もあり、正確な情報を伝えていく必要があると思います。

神田眞人氏
神田眞人氏
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