消えることのない「死にたい」 

レイさんは現在、精神科クリニックに通っている。「死にたい」という気持ちが大きくなり、薬も強くなっていった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)とも診断された。

少したって、警察から電話があった。「男が釈放されるかもしれない」。すぐにホテルを探した。2ヶ月ほど滞在し、父の伝手で安くしてもらえたが、それでも40万円ほどかかった。

「お金がいくらあっても足りない」「何をされようが、もうどうでもいい」

次第にそんな考えが浮かび、自宅に戻った。

比嘉レイさん(仮名)
比嘉レイさん(仮名)

ピンポンに怯える日々だが、さらなる引っ越しを考えることもできない。家族や友人と一緒でなければスーパーや飲食店にも行けない。一番怖いのは、玄関の鍵を開けて中に入る瞬間だ。「また襲われるかもしれない」

事件後、レイさんは意を決して職場に向かった。だがすぐに引き返した。「無理だ」

もともと飽きやすい性格で、趣味もなかったが、この仕事だけは好きになれたのに…。すでに貯金は底を突きかけていた。

上司は「辞めないで」「落ち着いてからでいい」と言ってくれたが、仕事に行こうとすると、熱が出てしまう。そして上司に告げた。「辞めます」

提示された示談金

事件直後、憲隆さんのもとへ引っ越し業者と下請けの幹部が訪れた。「誠心誠意やらせてもらいます」。憲隆さんは追い返した。

続いて、男の弁護人からも連絡があった。「20 万円で示談してほしい」。憲隆さんは叫んだ。「ふざけるな」

取材に応じる比嘉憲隆さん(仮名)
取材に応じる比嘉憲隆さん(仮名)
すべての画像を見る

さらに11月末、引っ越し業者は200万円を提示してきたが、これも拒絶した。

レイさんの中で、警察に通報したことへの罪悪感が消えたのは、男側から20万円での示談を持ちかけられたときだった。「20代後半の男が、1ヶ月の給料程度で。なめているのか」。男は保釈金「180万円」を一括で納めたとも聞いた。