「家を知られている」恐怖 

すぐに県警の捜査員4人が現れた。続いて鑑識も到着。レイさんは日付が変わるころまで約6時間、事情聴取を受け、その際に警察官から「(男を)逮捕したよ」と教えられた。

レイさんは号泣した。「家を知られている。通報したことで、逆恨みされるかも」という恐怖の一方で「私のせいで人の人生をつぶしてしまった」という思いもあった。警察官は「それは違うよ。原因は相手だから」と慰めてくれたが、罪悪感はぬぐえなかった。

沖縄県警本部
沖縄県警本部

今振り返ると、泣き寝入りせずに通報できたのは、男が発した「また来るね」という言葉が引き金だった。「本当にまた来るのではないか。接近禁止にしてほしい」。その一心だった。 

 未遂? 地元紙の報道とは

この事件を報じた地元紙のベタ記事の見出しは「不同意わいせつ未遂で逮捕」。アパートの一室で面識のない女性に抱きつこうとしたなどとして、自営業の男を逮捕した。男は業務の依頼を受けて訪れていた―。

「自営業? わいせつ未遂?」

レイさんの父の憲隆さん(仮名)は、こんな疑念を抱いた。「警察が大手である引っ越し業者に配慮して『引っ越しでの性犯罪』という事実に蓋をしたのではないか」

後に業者側の説明で判明したが、洗濯機の設置は業者が子会社に委託していた。驚くべきは、この子会社は沖縄県内の協力会社に再委託したうえ、この協力会社の代表が知人だった加害者の男に再々委託していたのだ。

そのため、男の肩書きは「自営業」となり、引っ越しではなく、洗濯機の設置業務に伴う事件と報道されたようだ。

那覇地検が起訴した罪名も「不同意わいせつ未遂」。レイさんは検察官から男の供述を聞かされた。

「不同意わいせつ未遂」と書かれた起訴状
「不同意わいせつ未遂」と書かれた起訴状

「お互いに気があると思った」「嫌がっていなかった」「あまりにも嫌がっていたから場を和ませようと思って体をくすぐっただけ」「体勢を崩しただけ」

途中から明らかに言い分が変遷していた。

起訴状にはこう記されている。

「被告人は女性が同意しないまま意思を全うすることが困難な状態にさせてわいせつな行為をしようと考え(中略)いきなり抱きついた上で、その身体を抱き上げてベッドに倒すなどの暴行を加えたが、抵抗されたため、その目的を遂げなかったものである」

なぜ、抱きつかれてベッドに倒されても「わいせつ行為の既遂」にならないのか。レイさんの頬をただ涙が流れ落ちた。