日本は、予防医療が保険適用されていない珍しい先進国 

2つ目はこちらです。

2、エビデンスに基づく予防医療を保険適用の対象とする

これまで述べたような医療改革をすると、診療所の収益は保たれながら、そこで働く医師の時間が余ってくる可能性があります。風邪などの軽微な疾患で受診する患者がセルフメディケーションをするようになり、受診する機会が減るからです。その分、診療所の医師が注力すべきなのが予防医療です。

日本では、歴史的な背景から、健康保険がカバーするのは治療的な医療サービスのみで、ワクチンや検診などの予防医療は健康保険ではカバーされません。日本では、予防医療は自費や、自治体の財源でカバーされているのが一般的です。

実はこれはかなり特殊な仕組みであり、他の先進国では多くの場合、予防も治療も健康保険によってカバーされています。

これは問題で、医療提供者側としては、予防を推進するインセンティブがありません。予防して医療機関を受診する必要性が下がれば、むしろ医療機関の売り上げが減ってしまう可能性すらあります。

社会全体としては、エビデンスのある予防をしっかり国民に広く提供し、病気を事前に防いで、その結果として健康を維持できる国民が増え、医療費も節約できるというのが理想的です。しかし、日本の医療機関への支払い制度は、そのような予防を推進するように設計されていません。

それを解消する策が、エビデンスのある予防を保険適用し、予防も治療も分け隔てなく、エビデンスのあるものはすべて健康保険でカバーするというものです。

もちろん予防を提供することで医療費総額が増えてしまうというリスクもありますが、きちんとエビデンスのある予防医療を国民が選択すれば、将来の病気を予防することで、医療費削減を達成できる可能性もあります。

実際に、予防医療の約2割は、健康増進効果だけでなく、医療費削減効果があると報告されています。

今の日本の問題は、提供されている予防医療がエビデンスのあるものとないものが玉石混交だということです。自治体などで提供されている予防医療の中にも、実は健康増進のエビデンスのないものが数多く含まれています。

この問題を解決するため、私たちは、久留米大学の向原圭先生を中心に、DSTの支援を受け、「日本予防医療専門委員会(JPPSTF)」を立ち上げました。そこで、日本人にとってエビデンスのある(推奨される)予防医療サービスのリスト作成を進めています。

JPPSTFのHP
JPPSTFのHP
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まだリストは作成中ですが、このリストに含まれるものが保険収載されるようになれば、エビデンスに基づく予防医療を通じて、日本人の健康を増進するだけでなく、医療費も削減できる可能性があると思っています。

確かなエビデンスに基づいた医療制度を構築することで、医療費の総額を減らしながらも、国民の健康を増進させることができます。

国民健康保険料を増額したり、高額療養費制度を改悪したりする前に、国にはもっとできることがあるはずです。

文/津川友介  サムネイル写真/Shutterstock