日本は無駄な検査や治療をしすぎている
包括支払い制度は、外来患者の数や検査の件数にかかわらず、かかりつけの患者の総数(頭数)に対して、月いくらといった具合に定額が医師に支払われる制度です。サブスクリプションのようなモデルです。収入が変わらないのならば、外来受診回数が少なければ少ないほど医療機関は儲かるようになります。
実際に、例えば安定した糖尿病患者の推奨されるHbA1cの測定頻度は6ヵ月に1回なのにもかかわらず、日本ではもっと頻回に行われています。包括支払いになれば、受診頻度もHbA1c測定頻度も欧米の同じ水準である3~6ヵ月に1回に変わると私は考えています。
この制度のメリットは、医療機関のコストが下がることです。仮に、今の出来高払いと同じ医療費総額が、医療機関に支払われるとします。そうすれば、外来受診回数や検査件数は1/3~半分になると予想されます。
これにより、人件費、光熱費、検査機材のコストなどを減らすことが可能になります。つまりたとえ医療機関の売り上げが多少下がったとしても、コストが下がれば、収益は維持できる可能性があります。
いまのように薄利多売の経営から、より低コストで効率的な経営にすることで、医療機関の収益に悪影響を与えることなく、医療費を削減できる可能性があります。
ここで注意しなくてはならないのは、過小医療のリスクです。出来高払いがどうしても過剰医療になってしまうリスクがあるのと同様に、包括支払い制度はどうしても過小医療になってしまうリスクがあります。
無価値医療の提供量が下がるだけならよいのですが、患者にとってメリットのある高価値医療まで過小医療になってしまい、患者の健康に悪影響がでるのは避けたいところです。
この過小医療の問題を解決するためには、包括支払い制度に「ペイ・フォー・パーフォーマンス(P4P)」を併用する必要があります。これは、医療の質や患者のアウトカム(医療行為に対する成果)を客観的指標を用いて測定し、ガイドラインを遵守した質の高い医療が行われていなかったり、糖尿病や高血圧の合併症が多いなどアウトカムが悪い場合には、経済的なペナルティーを与える支払い制度のことです。
これを用いることで、医療の提供される「量」に対してお金を払うのではなく、医療の「価値」に対してお金を払うことが可能となり、結果的に医療の質を高めるインセンティブとなります。