レガシー半導体は封じ込めを突破
また、半導体の問題について見過ごされがちなのは、世界における需要の大半は技術的には成熟したレガシー半導体だという点だ。例えば、米国が2022年10月の包括的な対中半導体規制でターゲットとしたのは、14/16ナノ以下の先端半導体だが、その数量ベースの市場シェアは数%程度だと言われる。
つまり、数の上ではレガシー半導体の需要が圧倒的に多いのだが、その生産や輸出は特に規制の対象となっていない。レガシー半導体に関しては中国企業も十分に生産能力があるため規制しても意味がない、ということに加え、中国企業と取引のある米国の大手半導体企業に深刻な打撃を与えてしまう可能性があるからだ。
こうして、レガシー半導体の分野ではむしろ中国企業の存在感が急速に拡大している。
半導体の進歩は何をもたらすのか? コンピュータやスマートフォンの性能向上が真っ先に思いつくが、それだけではない。「産業のコメ」とも呼ばれる半導体は、今やさまざまな製品に組み込まれているが、そのほとんどがレガシー半導体だ。こうしたレガシー半導体の性能向上、価格低下はさまざまな恩恵を社会にもたらす。
中国ではレガシー半導体の製造技術、サプライチェーンが進化しているほか、そうした製品を設計する企業も増えている。この点について筆者は、中国における半導体集積回路の製造技術に詳しい、金沢大学の秋田純一教授に直接お話をうかがった。
秋田教授によれば、レガシー半導体設計を担う中国中小企業は近年急速に実力をつけている。特にハードウェアのシリコンバレーといわれる深圳(シンセン)市では、市場のニーズに合わせてカスタマイズされた、少量多品種の専用半導体の開発などが盛んにおこなわれているという。
林宏文氏によると、中国政府の半導体国産化戦略を受け、2000から3000社のIC設計企業が誕生したという。むろん、そのほとんどは実力不足であり、量産にまでたどりつく企業はわずか1%程度。台湾では50%は量産にまでたどりつくことを考えると、まだまだ無駄が多いことは事実だ。