低速EVの時代
見た目は小型自動車の形をしているが、安全性などの規格を満たしていないため法的には自動車ではなく、電動カートや電動車いすという名目で製造されている。自動車と違って免許も不要だ。
つまりは見た目と機能は小型自動車だが、法的には自動車ではない。非合法の代物なのだが、最盛期には年100万台が製造されていたというのだから驚きだ。中国のほとんどの地域では規制されているが、山東省や河北省、河南省、江蘇省、福建省などの農村部、北京市の郊外など一部の地域だけで黙認されていた。
低速EVの歴史はかなり古い。中国ではもともと、2000年代中盤から電動自転車産業が大きく成長してきた。電動自転車と言っても、足でこがなくても自走できる、実質的には電動バイクのことを指す。
この電動自転車市場が拡大する過程で、より多くの荷物が運べるように電動三輪が作られるようになり、さらにもっと安定した走行ができるようにタイヤを一つ足して、低速EVが誕生することとなった。
私は2018年8月に山東省で開催された第7回山東省国際省エネ・新エネルギー車展示会を訪れた。会場に入ると、驚きの光景が広がっていた。済南市最大の国際展示場が、おもちゃのような低速EVで埋め尽くされていたのだ。ジープを模倣した車もあれば、ハローキティやミッキーマウスなど海外のキャラクターをおそらく無断で車体に描いた車もある。
出展メーカーは多いが、製品の見た目は似たり寄ったりだ。理由はすぐにわかった。会場では完成車メーカーだけではなく、部品サプライヤーも出展していたが、その中にボディを提供する企業があった。
同じシャーシを複数のメーカーが採用しているのだから、まったく同じフォルムになるのも当然だ。まるで玩具のミニ四駆のようで、モーターとバッテリー、タイヤがついたシャーシの上に、適当なボディを載せれば、それだけで製品ができあがる。
外見は別の車でも土台は同じという低速EVがいくらでも作れる。他にも塗装やモーター、電池、ブレーキ、シャフト、エアコンなど、ありとあらゆる部品メーカーが出展している。会場を一周して部品を集めれば、低速EVを1台完成させることができるだろう。
これだけの産業規模に発展した以上、さまざまな技術革新も進んでいた。低速EVでは通常、鉛蓄電池が使われるが、雨水による故障が多い。そうした弱点を克服すべく、電解質溶液をゲル化させたコロイドバッテリーが新製品として展示されていた。
電動自転車、電動三輪、低速EV、宏光、そして現在──。並べて見ると、中国の電動モビリティは小さなものから大きなものへと発展している。EVという視点だけで見ると、あたかも2021年にいきなり市場が立ち上がったかに思えるが、電動モビリティという視点で見ると、着実にマーケットを拡大し、より大きなものがより安く買える技術革新が進んできたのである。