「どうして裸なの?」と母に聞かれて
7年ぶりに洗面所の鏡で自分の顔を見ると、あまりの変わりように驚いて15分ぐらい固まってしまった。
髪は伸び放題で、25歳なのに長年のストレスのせいか白髪まである。体重計に恐る恐る乗ると、何回測ってもエラー。100キロを超えていたので測定不能だったのだ。
お風呂に入った後、タオルを体に巻き付けて、ずっと触っていなかったピアノの前に座る。
『エリーゼのために』『月光』『別れの曲』など慣れ親しんだ曲を弾いていると、母親が車で帰って来る音がした。いつもなら顔を合わせないよう、脱兎のごとく逃げてしまうのだが、そのまま弾き続けた。
母親はピアノを弾く息子を見ると、こう声をかけた。
「どうして裸なの?」
まるで昨日の会話の続きのようで、瀧本さんは自然に答えていた。
「太り過ぎて下着も服も入らないから、タオルを巻くしかない」
母親はすぐ父親に電話をかけて「裕喜が7年ぶりに話した! 1番大きいサイズの服と下着を買ってきて」と頼んだ。
「歴史的な出来事ぐらいな勢いで(笑)。親からすると、そうなのかと。本当は『もう、ひきこもらなくていいの?』と聞きたかったと思うんです。
だけど、それを言って、またひきこもったらマズいと考えて、次に気になったことを聞いたみたいです」
外に出て最初にしたのは、痩せるために真夜中に家の近所を歩くこと。お腹がつかえて自分では靴紐も結べず、母親が代わりに結んでくれた。
5分も歩くと息切れがして体が悲鳴を上げたが、じょじょに距離を延ばして行き、1年間で30キロ以上体重を落としたという。