「また揚げ物かよ」的な雰囲気も
「飲み物は瓶ではなく紙パックなどで提供され、スプーンやフォークを使わせることはありません。とくに注意が必要な留置人が箸を使うときは看守が常に監視し、最後に必ず箸の本数も確認しています。片っ端から身体検査していくことになるので、箸が1本足りないだけで大騒ぎになります」
留置場などでの食事は公金によって賄われるが、収監される際に自らの預けた所持金の“領置金”で買える食事もある。
「切手や便箋、歯磨き粉やタオルといった洗面道具などを買うもので、基本的に食品類は買えません。
しかし、『差弁(さしべん)』・『自弁(じべん)』という、少し特別な1000円以内ぐらいで注文できるお弁当が買える留置場も一部あります。
『差弁』は2種類ほどの中から注文するかたちで、パンなどが買えることもあります」
衛生面の事情や1日2300カロリーを満たす必要から、留置場での食事は揚げ物が多い傾向もあるそうだ。基本的に提供されるのは食事だけなので、デザートや菓子類などの甘いものは、あまり口にできないという。
「留置場によっては日曜の朝食だけ、予算の中で菓子パンなどを提供することがあります。私がいた留置場は神奈川県で一番大きい留置場で、365日3食必ず用意されていましたが、小さい警察署・留置場の場合は官弁の業者さんが日曜・午前だけ休みということがあるんです」
その場合、留置人はパンの具体的なリクエストもできるそうで、あんぱんやメロンパンなどの菓子パン、コーヒー牛乳などの甘い飲み物を希望する人が、やはり多いらしい。
「だいたい前日の土曜夜や昼に要望を聞くんですが、日曜の朝食のことばかり考えている留置人もいるくらいです。
基本的にはどんなメニューも人気でしたが、どちらかというと揚げ物は「またかよ」みたいな雰囲気はありましたかね(笑)。わりと炒め物などの評判がよく、揚げ物の中では春巻きはけっこう人気だったような気がします」
取り調べを受ける留置人にとって、3食の食事はやはり特別な時間であり、唯一の楽しみのようだ。
【プロフィール】
小川泰平。1961年愛媛県松山市生まれ。1980年、神奈川県警察官を拝命。1年間の交番勤務の後、機動隊に2年、留置場の看守勤務を経て所轄の盗犯係の刑事を皮切りに、警察本部機動捜査隊、警察本部刑事部捜査第3課、刑事総務課、国際捜査課、警察庁刑事局刑事企画課、等で第一線の刑事として主に被疑者の取り調べを担当。警察庁刑事局刑事企画課時代にはソウルに出張し韓国警察庁との合同捜査に参加。知事褒賞のほか、警察局長賞、警察本部長賞など受賞歴多数。柔道四段。30年奉職し退官、現在は犯罪ジャーナリストとして、執筆、講演活動の他報道番組、情報番組等で事件の解説等を行っている。YouTubeチャンネル「小川泰平の事件考察室」
取材・文/伊藤綾