「アメリカが非公式に協力を打診してきた」(防衛省幹部)

衛星コンステレーションで先行するのは米国だ。米国防総省は2019年3月に宇宙開発庁を新設し、最大1200基の衛星コンステレーション網を構築する計画を発表。25年までにシステムの中核となる250基による運用開始を目指すとした。

ノースロップ・グラマン、レイセオン、レイドス、L3ハリスの4社が衛星群の開発を進めているが、米国防総省はこれで十分とは考えていない。

なぜか? 衛星群の維持管理が難題なのだ。「衛星コンステレーション」は1基数百キログラムの小型衛星となるため、搭載できる燃料が限られ、寿命は短い。寿命を5年として計算すれば、毎年240基を打ち上げる必要がある。

1基あたり1千万ドル(15億円)程度と安価とはいえ、1200基もの衛星群を維持するには巨額の費用がかかる。その費用試算はロケットの打ち上げ費を別にしても年間約24億ドル(3600億円)にのぼる。

写真はイメージです
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防衛省幹部は「『衛星コンステレーションを一緒にやらないか』と米側が非公式に協力を打診してきた」と打ち明ける。これを受けて防衛省は、高い衛星技術を持つ三菱電機、NECなどが参加できるか、模索を開始した。

もともと日米には2015年4月に設置された日米宇宙協力ワーキンググループ(審議官級)があり、宇宙政策や戦略にかかる幅広い議論を続けている。その成果として24年8月には「宇宙に関する日米包括的対話における日米両政府共同声明」を発表。「衛星コンステレーション」について「協力を進めることを含め、宇宙安全保障協力の更なる強化について議論した」と表記された。

つまり、「衛星コンステレーション」をめぐっては米国が先行し、後続の日本と連携することを検討中ということになる。とはいえ、25年度防衛費で運用を開始する以上、日米で連携するか、日本独自の衛星群とするか早急に決断しなければならない。

問題は、日米連携が進めば、日本が米国の戦略に組み込まれることにある。米国防総省は「衛星コンステレーション」構想が浮上する以前の2013年、「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想を発表した。「衛星コンステレーション」がハードウェアだとすれば、IAMDはソフトウェアにあたる。

IAMDは「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」とされ、防衛にとどまらず、攻撃を含む。防衛省が衛星コンステレーションの日米連携を進めれば、いずれIAMDへの参加に踏み切らざるを得ない。

2020年3月には日米で情報を共有できる新システム「共同交戦能力(CEC)」を搭載したイージス護衛艦「まや」が就役、翌21前年3月には同じく「はぐろ」が就役した。さらにCECを搭載した航空自衛隊の早期警戒機「E2D」も配備された。

既存のデータ共有システムでは自らのレーダーが探知した場合しか攻撃できなかったが、CEC搭載により共有したデータを相互利用して遠方にいる味方が敵を攻撃できるようになった。戦闘技術の革命といえる。

このCECはIAMD構想の柱であり、日米がIAMDに参加すれば、米軍の情報をもとに自衛隊が敵基地攻撃をしたり、自衛隊の情報をもとに米軍がミサイルを発射したりする「武力行使の一体化」に踏み込むことになる。