不安なとき、誰でも抱く「被害妄想」

妄想とは、事実ではないことを事実だと確信してしまうことです。いくつもタイプがありますが、認知症関連では「ものを盗まれた」と確信する「もの盗られ妄想」や、「裏切られた」と確信する「嫉妬妄想」などの被害妄想が困ったこととしてピックアップされることが多いようです。

ここから解説は「もの盗られ妄想」を例に行いますが、総じて被害妄想の背景には不安があり、嫌疑が身近な人に向けられやすいことが共通しています。

そして、被害妄想について理解するには、実は「妄想ではないことも多い」という注意が必要なことも同様です。

妄想は、事実ではないことを確信すること。しかし、たとえばもの盗られ妄想を訴える人が、家族間で相続についてもめていたり、通帳や印鑑などを取り上げられ、資産を勝手に使われていたり、妄想とは言えない場合が往々にしてあります。

高齢者を妄想のある認知症の人に仕立てあげ、資産を着服しようとする人がいないわけではないのです。ですから認知症の人が被害を訴えたからといって、事実ではない妄想と決めつけてはいけない。BPSDへの対応を考える前に、事実確認がまず必要です。

背景を確認し、事実ではなく、もの盗られ妄想だったら、妄想が生じる根底にある不安に目を向けてみましょう。

実は、もの盗られ妄想とは、認知症の人だけに起こるものではなく、私たちにも身近なことです。以下、ちょっと想像しながら、読んでみてください。

認知症への根本的な誤解。”認知症だから”「被害妄想を抱き」「暴力的で」「注意散漫」になるわけではない_2

仕事を終え、普段どおりの通勤ルートで家に帰ったとき、スマートフォンや財布がないことに気づいたとします。仕事机に置き忘れたか、どこかで落としたか。困って、落ち着きを失いますが、「盗まれた」と確信はしないでしょう。