SAPIX独り勝ちの背景に入試問題の変化

そもそも、SAPIX小学部が現在のトップ層向け塾としての地位を確立した背景には、入試問題の変化が関係している。2000年以降、学習指導要領の改定により、私立学校は指導要領以上の教育レベルを提供できるようになった。これにより、私立学校の入試問題の難易度上昇に歯止めがかからなくなった。

撮影/集英社オンラインニュース班
撮影/集英社オンラインニュース班

「かつてのトップ層向け塾として四谷大塚や日能研が高い知名度を誇っていましたが、SAPIX小学部は後発だからこそ、難関入試に特化した独自のカリキュラムをいち早く柔軟に構築できました。その結果、難関校への合格実績を着実に重ね、現在の強い支持を獲得するに至りました」

SAPIX小学部は単なる知識の詰め込みではなく、図表からの類推や規則性の発見など、考える力を育む学習を重視している。これにより、暗記だけでは太刀打ちできない難関校入試の出題傾向にも対応できる体制を整えている。趣向を凝らした質の高い授業は、生徒にとって理想的な環境と言えるだろう。

だが、低学年から入塾しない限り上位クラスに所属することが難しいといった制度や、テストの成績次第で上位クラスから落とされるといった厳しいルールが一部では批判も招いている。

またSAPIXだけに限らず、ハイレベルな塾の授業についていくために、生徒たちは塾終わりに、家庭学習に膨大な時間を費やすことになる。さらに一部では小学校を休んでまで中学受験対策をする生徒もおり、議論を呼んでいる。

熾烈を極める中学受験、森上氏はその危険性も指摘している。

「中学受験では親の意向が強く影響しやすく、親が受験に熱中しすぎるあまり、子どもに過度な学習を強いてしまう問題が生じています。深刻な場合は虐待に発展し、児童相談所の介入が必要となるほどの事態に至り、最悪の場合、自死という痛ましい結果を招くこともあります」 

写真/Shutterstock
写真/Shutterstock

難関校の中学受験では、親がスケジュールやタスク管理を担うことも珍しくない。子どもだけでなく、親にも大きな精神的・時間的な負担がかかることを覚悟すべきだ。

だがそもそも、受験に過度にのめり込むあまり、子どもが学習意欲を失い、勉強を拒絶してしまったり、家庭不和を生むことは、本末転倒な結果といえるだろう。