令和ロマン・ケムリに言われた一言
次世代のお笑い界を担う宝の山ともいえる大学お笑いサークル。だがそこにある格差を肌で感じる無職さんは、その世界について「残酷」と一言つぶやく。その真意はなにか。
「私が見てきた限り、大学お笑いサークルで成功する人たちには、3つの共通項があります。
1つ目は高学歴で育ちが良いこと。学力があり、努力できる根性があり、子どもが頑張れる環境を親が作ってくれているということですから、ネタの台本もおもしろくなりやすいでしょう。
2つ目は普通に就職活動をしても高確率で大手企業へ採用されるスペックがあることです。頭脳明晰で社会性があり、常識もある人たちなので、簡単にいうと“勝ち組”なわけです。
3つ目は1つ目とも通じますが、試行錯誤の機会に恵まれていること。お笑いサークルの大半は私立文系の学生であり、時間とお金が豊富にあることから、笑いの研究に時間を注げます。
これらのタイプは、成功しやすいと言えます。
かつてのお笑い芸人は、社会に馴染めないけれどもなにか一つユニークな点が光る人たちの最後の砦でした。バランスを欠いている人間でも称賛されるのがお笑いの世界だったと思います。
しかし現在は、“人間力”が高くて通常の社会生活においても成功を収めるであろう人がお笑いの舞台においても活躍しています。持てる者がすべてかっさらっていく構図が、さみしく感じてしまうんです」
圧倒的な実力の差を目の当たりにし、打ちひしがれた無職さんだが、意外にもお笑いサークルに対しては「感謝しかない」のだという。
「私はかつて、同量の努力をすれば人間は誰でも同じ到達点にいけると信じ込んでいました。努力信者だったと思います。でも、それは間違いでした。
自分が考えたネタを令和ロマンの松井さんに見てもらって、何回も『つまんない(笑)』と言われて、ようやく元の才能が違うことに気づいたんです。
松井さんはとても優しい人なので、きっと、私があきらめられるように、傷つかない言い方で教えてくれたのだと思います。
私は周囲の友人から『おもしろい』と“笑われて”いたけど、周囲を“笑わせて”いた人たちだけがプロを目指せるんですよね」
「今以上に誰かを傷つけていたと思います」
無職さんがここまで深い感謝をするのは、自身の性質がよくわかったためだという。
「芸能界でもそうですし、一般社会においてもそうですが、自分が他人からどのように見えているかを深く考察することなく行動した結果、大きな問題になっている場合がありますよね。
私の場合、特に他者の気持ちを慮れない性質があるため、サークルに入って同期や先輩から指摘してもらわなかったら、今以上に誰かを傷つけていたと思います。
私は今、自分になにができるかをじっくり考えて、無職という動かない選択をしました。この社会で生きるコツや流儀がわかるようになったら、また動き出そうと思っています」
かつて社会のはみ出し者が逆転する手段が「芸の世界」だったのに、今では完全無欠の優等生たちによってテリトリーが奪われていく――という無職さんの指摘は興味深い。
さらにおもしろいのは、無職さんがお笑いスターたちに対して尊敬がある点だ。本物のスターは周囲の僻みや嫉妬すら追いつかないスピードで活躍していく。その現実はなんとも残酷で、少し優しい。
取材・文/黒島暁生