「性別適合手術後は本当に世界が変わった」
―――カミングアウト、そして性別適合手術を受けたきっかけは?
22歳のときに独立して移動販売のハンバーガー屋さんを始めたんですが、始めて3ヶ月くらいで事故に遭って店が潰れてしまい、借金だけが残ったんです。その2年前に父をがんで亡くしていましたし、当時は自分の性自認とも向き合えていなくて……。
いろんなことが重なって、「こんなに辛い人生なら、いっそ死にたい」と思うようになっていました。そのとき「どうせ死ぬなら、性別適合手術をしよう」と決意したんです。
まわりの人には、性別適合手術を受ける前に初めてカミングアウトしました。そのときは全員から否定されるんじゃないかと思っていたんですが、予想と反して、ほとんどの人が肯定的で。「由加(性別適合手術前の名前)は由加だから、これからも変わらないよ」と言ってくれる人もいて、初めて「生きていける」と感じました。
―――井上さんはどのような性別適合手術を受けたのでしょう?
乳腺摘出手術と子宮・卵巣摘出手術を、別々に受けました。乳腺摘出をしたのが23歳のときで、子宮・卵巣摘出をしたのが24歳のとき。どちらもバンコクで手術を受けたんですが、乳腺摘出のときは生まれて初めて海外に行ったので、それだけでもすごく怖かったですね。
―――術中や術後には、やはり激しい痛みが伴うのでしょうか?
どちらも全身麻酔で受けたので、手術中の記憶はありません。
ただ乳腺摘出は出血量が多い手術なので、ドレーン(体内に溜まった血液などを体外に排出する医療器具)をつけたんですが、手術から目が覚めたとき、体に管とペットボトルみたいなものがついていてびっくりしました。
その管を抜くとき、すごく痛いってわけじゃないんですが、体から管が抜けていく感覚が気持ち悪かったですね。
術後の痛みとしては、乳腺摘出手術よりも子宮卵巣摘出のほうが辛かったです。重い生理痛のような鈍痛が入院中、3日間くらい続きましたが、4日目くらいから動けるようになりました。
それからは痛みもなく、不自由なく過ごせています。
―――摘出された子宮と卵巣を見たとき、どう思いましたか?
術後にナースが部屋に来て、手術で取った僕の子宮と卵巣が入ったビニール袋を見せてくれたんですが、そのときまだ麻酔が効いていて、意識が朦朧としていて。でも、そのナースと写真を撮り合うなど、なんだか楽しい雰囲気でしたね(笑)。
性別適合手術をしたあとは、本当に世界が変わりました。自分らしく生きることができるようになって「もっと早く手術をすればよかった」と、心から思いました。