欲しい人に欲しいものが届かない

――「転売ヤー」を取材したきっかけはなんだったんですか?

奥窪優木さん(以下同) もともと中国を取材していたので、中国人が手掛けるビジネスの1つとして注目したのが最初です。

コロナ禍に品薄となったマスクやオムツの転売が流行った頃、ちょうど裏社会系の取材を多く手掛けていたのもあって、日本国内でも「転売」と騒がれているのをよく聞くようになりました。

転売は結局、消費者にもメーカーにも大迷惑です。欲しい人に欲しいものが届かないという悪弊がありますから。そこで関心を持って、くわしく調べてみようと思いました。

「転売ヤー」を取材した奥窪優木さん
「転売ヤー」を取材した奥窪優木さん
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――日本ではSNSでの「転売ヤー死ね」の言葉通り、敵視された存在ですが、諸外国ではどうですか?

残念ながら、その感覚は全くありません。中国人転売ヤーは自分たちのことを「バイヤー」と名乗って堂々としています。アメリカなんかでも「リセラー」と呼ばれる、ごく当たり前の商売となっています。

自分の体験としても、アメリカ人の友人に「今度、転売ヤーの本を出すんだ」と言ったら「そんな当たり前のことが本になるのか? 絶対に売れないだろう!」と驚かれました。

――そんな事情があったんですね。日本人のような「転売ヤー=悪」だと思う感覚は、むしろめずらしいということですか?

そうですね。日本で転売ヤーが嫌悪感を与えるのは、同じ商品でも人によって買う価格が変わったり、金がある人のところにモノが行ったりすることが公平ではないという考え方が浸透しているからだと思います。