2023年3月末時点で221億円あった現金はどこへ…
2022年6月の定時株主総会で板東浩二代表取締役会長兼社長が退任。上田智一氏が代表取締役社長に昇格した。板東氏が代表を退任した理由は不明だが、しばらく船井電機の経営は安定していた様子が伺える。
2023年3月期の事業報告書にはこのように記載されている。
“金融機関との関係は引き続き良好であり、当社グループの当連結会計年度末現在の現金及び預金残高は221億96百万円となっております。当連結会計年度において23億63百万円の親会社株主に帰属する当期純利益を計上”
23億円の純利益を出し、2023年3月末時点では221億円もの現預金を有しているのだ。
しかし、2024年3月期の事業報告書では現預金、純利益、金融機関との関係は一切言及されていない。
そして2023年4月にミュゼプラチナシステムズ合同会社を買収し、2024年3月に同社の全株式を譲渡した事実が淡々と書かれている。
船井電機がミュゼの広告費の債務保証をしており、支払いの遅延にしびれを切らしたウェブ広告のサイバー・バズが船井電機株の仮差押えを申請。東京地裁がこれを認める決定を下した。そこから転がるように倒産へと至ったのは報じられている通りだ。
300億円もの資金が流出した形跡があるなど、衝撃の事実が次々と明るみになっているのにもかかわらず、一連の倒産劇の主導者が何者なのかはわかっていない。
ただし、上田智一氏が計画的にそれを行なっていたのかというと疑問の余地がある。
液晶テレビからの脱却を模索する中でたまたまミュゼプラチナムと出会い、巨額の広告費を肩代わりして株式が差し押さえられ、転がるように倒産へと至ったように見えなくもないからだ。
船井電機の一件で恐ろしいのは、一見、適正に見える経営判断が悲惨な末路へと至ることもありうるのではないかと思わせることだ。
間違いなく言えるのは、子会社ミュゼの広告費の不払いを見過ごすなどのコンプライアンス違反を犯すことになれば、一瞬で会社は倒れてしまうという事実である。適正なかじ取りができなかった経営陣の責任は重い。
計画的に倒産させたかどうかはともかくとして、会社が傾いた時期に会社のトップに立っていた上田智一氏は、原因究明のためにも説明責任を果たす義務があるだろう。
取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock