今年の夏に起きた異変…
ここ数年、恋愛やトキメキからは縁遠く、「私の性欲や恋心はもう枯れてしまったんだ」と、そう思って生きてきました。
そんな私に異変が起きたのが今年の夏の出来事。
ことの始まりは、友人宅のホームパーティーで出会ったひとりの山男、彼が私に投げ掛けた「大久保さん、今度、一緒に富士山に登りましょうよ」という一言でした。
たしかに、それまでも富士山に登りたい気持ちはあった。
でも、それはあくまでも日本人が平均的に抱くであろう「いつか登れたらいいなぁ」レベル。
なのに、その一言に「登ります!」と即答してしまったのはきっと、単純に、彼が私のタイプだったからなんでしょうね。
ただ、当時は冬の閉山時期だったため「山開きの時期が来たら挑戦しましょう」ということに。
それ以来、富士山のことなんかスッカリ忘れていたのですが、今年の春、またもや友人宅で彼に再会。
「富士山どうですか、やる気はまだありますか」と確認する彼、そして、好みの顔面を目の前に「もちろん!」とまたもや即答してしまう私。
結果、トレーニングをしたこともなければ、山なんてまともに登ったこともないこの私が、人生初の富士登山に挑戦することになったのです。
登山に向けて、まずは専門店に一緒に行き必要なグッズを買うことに。
「これはデートだ、久々のデートだ」と心が湧き立ったのも束の間、店内で彼は真剣にグッズを選ぶゴリゴリの山男に変貌。
私に登山靴を履かせ、斜面になった板の上を何度も上がり下がりさせて「踵は詰まっていますか、つま先は空いてはいないですか」と確認。その様子はデートどころかまるでリハビリ。
さらには、何十分もかけて私のリュックを選び、最終的にはその姿を「もう、どれでもいいよ」の気持ちで眺めることに。
それでも萎えかけた気持ちを奮い立たせ、店を出たときには「お礼に食事でも」と誘ったのに、「今、断食中なんで!」と眩しい笑顔を私に向けて去ってしまった山男……。
あのときから、私たちの間には若干の温度差があったのかもしれない、いや、確実にあったのでしょう。
それが明確になったのが登山当日です。
性欲が目を覚ますとき
新富士の駅に、私と友人、彼と登山仲間、2対2の男女四人が集合。
「ある意味、これはダブルデートなのかもしれない」とまたもや淡い期待に胸が高鳴ったのですが、楽しかったのはその一瞬だけ。
登山口である富士山五合目にタクシーで向かっている途中に天気が激変。横殴りの雨と一緒に雹がパラパラと降りはじめ、そんな悪天候のなか登山をする羽目に。
これが本当に辛くてねぇ。
雨で視界が遮られ、目の前を歩く人の靴を見るのがやっとの状態。さらには頭のてっぺんから靴の中までビショビショ。
なんとか山小屋まで辿り着いたものの、雨でメイクは全て流され、顔についているのは、申しわけ程度に毛が生えた眉頭だけ。
本当に汚くてボロボロで情けなくて、山に登ったことを後悔するばかりだったんですけど、山小屋で一缶千円のビールを飲み始めたあたりから「この感じ、悪くないかも」と感じるように。
なんでしょうね、大自然に囲まれて動物に近い感覚になったのか、それとも、危機的状況のなかで子孫繁栄の本能を掻き立てられたのか。
私の中で眠っていた性欲という名の獣が目を覚まし、「この山男達に私の全てを見てもらいたい」という気持ちに……。